最新記事
宇宙

存在するはずのない系外惑星「ハルラ」をめぐる謎、さらに深まる

Mystery of planet that shouldn't exist deepens

2024年5月16日(木)15時57分
ジェス・トムソン

(写真はイメージです) Jurik Peter-Shutterstock

<主星の膨張で呑み込まれて消滅したはずの惑星「ハルラ」はいったいどう生き延びたのか>

「もう存在しないはず」の系外惑星(太陽以外の星の周りを公転する惑星)について、これまでの仮説が誤りであることを示す新たな証拠が浮上。天文学者たちは思案に暮れている。

「ハルラ」または「こぐま座8番星b」と呼ばれるこの惑星は、2015年に発見されて以降、科学者たちを混乱させてきた。本来ならば主星に吞み込まれて、とっくに消滅しているはずの星だからだ。

【動画】【シミュレーション】「太陽」が爆発しても惑星「ハルラ」が呑み込まれなかった理屈

ハルラの主星「ペクトゥ(こぐま座8番星)」は赤色巨星に成長するなかで、ハルラの軌道までの距離の約1.5倍まで膨張し、その後、現在の規模まで収縮したと考えられている。ハルラは膨張の過程で主星に呑み込まれてしかるべきだった。

 

存在しないはずのハルラがなぜ、今も存在しているのか。その理由について幾つかの仮説が示されたが、国際宇宙物理学専門誌「アストロフィジカル・ジャーナル・レターズ」に発表された新たな論文が、さらなる謎を呼んでいる。

太陽系から約520光年離れたところに位置するハルラは、木星のようにガスを主成分とする巨大ガス惑星で、主星から太陽・地球間の約半分の距離のところを93日周期で公転している。

「並外れたサバイバー」

主星のペクトゥは中心核(コア)でヘリウムの核融合反応が起こる「ヘリウム核燃焼」の段階に入っていることが判明している。このことはペクトゥが、中心核の水素を核融合で使い果たして急激に膨張して赤色巨星になるプロセスを終えたことを意味する。元の大きさから考えれば、ペクトゥはハルラの軌道までの距離をはるかに超えて膨張し、ハルラを呑み込んだはずだ。ではなぜハルラはまだ存在しているのか。

ハワイ大学天文学研究所NASAハッブルフェローのマーク・ホンは2023年6月の声明の中で、「惑星の呑み込みは、呑み込まれた側の惑星にとっても呑み込んだ側の主星にとっても、壊滅的な結果をもたらしてきた。ハルラが自らを呑み込んでいたはずの巨星の近くに存在し続けているという事実は、この惑星が並外れたサバイバーであることを示している」と述べた。

ハルラがどうやって生き延びたかに関する過去の仮説は、ペクトゥが実は質量の低い2つの星が1つの赤色巨星として合体したものであり、そのため相手を呑み込むほど大きく膨張しなかったと示唆するものだ。

だがこの仮説が成り立つかどうかは、主星の「年齢」次第だ。年齢が若ければ別の星と合体することは考えにくく、90億年程度ならば合体の可能性はより高まる。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

中国への融資終了に具体的措置を、米財務長官がアジア

ビジネス

ベッセント長官、日韓との生産的な貿易協議を歓迎 米

ワールド

アングル:バングラ繊維産業、国内リサイクル能力向上

ワールド

ガザ支援搬入認めるようイスラエル首相に要請=トラン
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 3
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航勧告を強化
  • 4
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 5
    アメリカ鉄鋼産業の復活へ...鍵はトランプ関税ではな…
  • 6
    関税ショックのベトナムすらアメリカ寄りに...南シナ…
  • 7
    ロケット弾直撃で次々に爆発、ロシア軍ヘリ4機が「破…
  • 8
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 9
    ビザ取消1300人超──アメリカで留学生の「粛清」進む
  • 10
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中