奇跡の成長に取り残された、韓国「貧困高齢者」の苦悩
SKY-HIGH ELDERLY POVERTY
韓国の保健福祉省は今年1月、古紙を収集する高齢者の実態調査を初めて発表した。これによると全国で約4万2000人の高齢者が古紙収集を行っている。平均年齢は76歳で、1日の平均労働時間は5.4時間、1週間に6日働いている。1カ月の収入は平均で15万9000ウォン。時給に換算すれば約1200ウォンだ。
OECDの最新統計によると、韓国の高齢者の相対貧困率(66歳以上)は40.4%で、OECD加盟国の平均14.2%の3倍近い。豊かな国であるはずの韓国の高齢者が深刻な貧困に陥っている原因について、嘉泉大学のユ・ジェオン教授(社会福祉学)は次のように説明する。
「国民年金制度の導入が遅れたのが最大の原因だ。韓国は国民年金制度を88年に導入したが、全国民に拡大されたのは99年以降。現在75歳以上の後期高齢者の中には国民年金に加入しなかった人が多く、加入したとしても最少加入期間の10年を満たしていない人がほとんどだ。だから、70代の毎月の平均受給額は50万ウォン半ば、80代は40万ウォンにも至らず、生計を維持するのは非常に難しい」
年金改革には若年層が反発
さらにユ教授は「高齢者の扶養に対する社会的認識の変化も影響を及ぼしている」と言う。「これからは高齢者の面倒を見るのは子供の役割ではなく、高齢者自身と国の責任だという考え方が広がるなか、核家族化が進み、家族構造が変化し、子供たちと同居しない高齢者世帯が急増している。1人暮らしや夫婦だけで暮らしている高齢者は世帯所得が少なく、貧困に追い込まれている」
再就職が困難な硬直した労働市場も原因として挙げられるという。韓国の法律上の定年は60歳だが、現実の退職年齢は50代前半だ。最初の職場を退職すると、ほとんどはまともな再就職ができず、臨時雇いを転々とすることになる。賃金水準も大幅に落ち、貧困から脱出しにくい構造になっている。
一方、高麗大学のキム· ウォンソプ教授(社会学)は、韓国の高齢者の突出した貧困率の背景として政府の責任を指摘する。
「韓国の高齢者の割合はOECD加盟国平均の2倍程度だが、公的年金支出はGDPの3.4%でOECD平均の8%の半分にも満たない。公的年金支出の規模を少なくともOECD平均まで引き上げる必要がある。このままだと、2050~60年になっても韓国の高齢者貧困率は30%を超え、状況は改善しない」
さらにキム教授は「より深刻なのは、韓国では高齢化が世界で最も速いペースで進んでいることだ」と言う。「現在は全体の約20%である高齢者の人口比率が、50年には40%を超え、60年には55%まで増えると予測される。高齢者の貧困は韓国の社会全体を貧しくする。そうなる前に政府の積極的な介入が必要だ」
具体的に必要なのは、年金制度の不備を補完するために設けられた基礎年金の拡大だ。「現行の65歳以上の所得下位70%に最高30万ウォンまで支給される基礎年金を、100%を対象に最大50万ウォンまで支給しても、韓国の公的年金支出は2040年のGDPの10%に及ばない。2040年のOECD平均は10%ほどと推定されるので、それでやっと平均値に到達する」