最新記事
EU

卵、鶏肉、ハチミツ...小さな経済支援が数年後、ウクライナの「毒杯」となる

2024年4月3日(水)18時55分
キース・ジョンソン(フォーリン・ポリシー誌記者)
ポーランド

ポーランド南部クラクフの道路を占拠して抗議する農民たち(2月20日) KLAUDIA RADECKAーNURPHOTOーREUTERS

<EUはウクライナ産農産物に対する輸入関税を免除してきたが、ポーランドなど一部の国が激怒している>

EUの行政執行機関に当たる欧州委員会は今年1月末、ロシアの侵攻に抵抗するウクライナへの支援の一環として、同国産農産物に対する輸入関税の一時停止措置をもう1年延長する案を提示した。

ただし、関税免除の延長はまだEU全体の正式な決定事項ではなく、将来のEU加盟を目指すウクライナにとって厄介な足かせとなりかねない。

卵や鶏肉、ハチミツ、トウモロコシといったウクライナ産農産物の関税免除をめぐる対立は既に数カ月間続いている。ロシアとの戦争の渦中にあるEU非加盟のウクライナにとって、年間10億ユーロ以上の輸出収入をもたらすとされる関税免除の延長は頼みの綱だ。

だがEU全体はともかく、一部の加盟国、特に東部の「最前線」に位置する国々の農民にすれば、無関税の輸入穀物流入は由々しき事態だ。ポーランドの農民は自分たちの生活を破壊する輸入農産物の「洪水」に抗議して、東西の国境を封鎖したこともある。

つまり、EUからウクライナへの小さな経済支援が強い政治的影響力を持つ加盟国の農業団体を怒らせ、ウクライナのEU加盟への支持を弱めかねないのだ。特にウクライナの隣国ポーランドでは、ここ数カ月は軍事支援や難民、ウクライナ産小麦、そしてウクライナのEU加盟に対してかなり冷淡になっている。

最近の世論調査によれば、ウクライナへの追加援助に対するポーランド人の支持は急降下している。大きな理由の1つが、安価な輸入農産物に対する農民の政治闘争だ。

2022年2月のロシアによる侵攻開始は、ウクライナの穀倉地帯と黒海経由の重要な輸出ルートを危機に陥れた。EUはウクライナ産農産物の多くに緊急関税停止措置を適用し、陸路でEUに輸出できるようにした。

外貨の獲得と輸出の拡大に必死だったロシア侵攻後のウクライナにとって、この経済支援は小さな命綱だった。それ以来、緊急措置は毎年続いている。欧州委員会は今年も関税停止を1年間延長し、ウクライナは17億ユーロの外貨を手にする予定だった。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ステファニク下院議員、NY州知事選出馬を表明 トラ

ビジネス

米ミシガン大消費者信頼感、11月速報値は約3年半ぶ

ワールド

イラン大統領「平和望むが屈辱は受け入れず」、核・ミ

ワールド

米雇用統計、異例の2カ月連続公表見送り 10月分は
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 2
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2人の若者...最悪の勘違いと、残酷すぎた結末
  • 3
    「路上でセクハラ」...メキシコ・シェインバウム大統領にキスを迫る男性を捉えた「衝撃映像」に広がる波紋
  • 4
    クマと遭遇したら何をすべきか――北海道80年の記録が…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    なぜユダヤ系住民の約半数まで、マムダニ氏を支持し…
  • 7
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 8
    長時間フライトでこれは地獄...前に座る女性の「あり…
  • 9
    【銘柄】元・東芝のキオクシアHD...生成AIで急上昇し…
  • 10
    「これは困るよ...」結婚式当日にフォトグラファーの…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 5
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 6
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 7
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 8
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 9
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 10
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中