最新記事
テクノロジー

「政府に都合の良い回答ばかり...」中国向けiPhoneにアップルが搭載しようとしている「ゆがんだ生成AI」の実態

Apple’s AI Problem

2024年4月23日(火)18時14分
マイケル・キャスター(英人権団体アーティクル19のアジア・デジタルプログラム・マネジャー)

つまり新疆ウイグル自治区やチベット、香港、台湾など、中国政府にとってデリケートなトピックについては検閲がかかるということだ。実際、同法案は、生成AIツールを導入する場合は、当局による「安全性評価」を義務付ける(これまでのところ、CACがゴーサインを出した生成AIツールは、百度の文心一言を含む約40種類とされる)。

当然ながら、中国政府のお墨付きを得たアプリに「間違い」はない。米政府の海外放送ボイス・オブ・アメリカの報道によると、1989年(天安門事件があった年だ)に中国で起きたことを尋ねると、文心一言は「関連情報なし」と答えるという。

新疆についての質問には、中国政府のプロパガンダをそのまま答える。香港の民主化運動について聞くと、「話題を変える」ことをユーザーに促し、チャットウィンドウを閉じてしまうという。

アップルが文心一言あるいは中国企業製の生成AIを採用すれば、中国政府の権威主義的なデジタルガバナンスを正当化し、中国のAI政策と技術を世界標準化する試みを加速させる恐れがある。

とはいえ、こうした中国のポリシーに最初に屈した世界的なブランドはアップルではない。サムスン電子は今年1月、中国市場向けの新型スマートフォン「ギャラクシーS24」に、文心一言が搭載されていることを発表した。

中国国外のAIにも影響

一方、オープンAIに莫大な投資をしているマイクロソフトは、チャットGPTを組み込んだ生成AIツールを早々に発表して、中国のツールとは大きく異なる生成AI経験を提供するかに見えた。

ところが程なくして、ウイグル人に対する人権侵害に関する質問にマイクロソフトの生成AIツールがおかしな回答をすることや、中国政府のプロパガンダと人権専門家や国連機関の見解とを同等に扱っていることが指摘されるようになった。

果たしてデータセットに問題があったのか、AIモデルのパラメーターに問題があったのかは分からない。だが、こうした事例は、中国の情報統制が、中国国外で使われる生成AIにも影響を及ぼしている可能性を示している。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

中国・EUの通商トップが会談、公平な競争条件を協議

ワールド

ミャンマー地震の死者1000人超に、タイの崩壊ビル

ワールド

焦点:大混乱に陥る米国の漁業、トランプ政権が割当量

ワールド

トランプ氏、相互関税巡り交渉用意 医薬品への関税も
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
2025年4月 1日号(3/25発売)

トランプの「逆風」をはね返す企業の努力が地球を救う

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジェールからも追放される中国人
  • 3
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中国・河南省で見つかった「異常な」埋葬文化
  • 4
    なぜANAは、手荷物カウンターの待ち時間を最大50分か…
  • 5
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 6
    アルコール依存症を克服して「人生がカラフルなこと…
  • 7
    不屈のウクライナ、失ったクルスクの代わりにベルゴ…
  • 8
    最悪失明...目の健康を脅かす「2型糖尿病」が若い世…
  • 9
    突然の痛風、原因は「贅沢」とは無縁の生活だった...…
  • 10
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 1
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 2
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 3
    「低炭水化物ダイエット」で豆類はNG...体重が増えない「よい炭水化物」とは?
  • 4
    「テスラ離れ」止まらず...「放火」続発のなか、手放…
  • 5
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 6
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 7
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 8
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大…
  • 9
    大谷登場でざわつく報道陣...山本由伸の会見で大谷翔…
  • 10
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 3
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 4
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 5
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 6
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 7
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 8
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 9
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 10
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中