最新記事
住宅

逃げるための時間はわずか4分! 「燃えやすく」「助かりにくい」現代の住宅...米データが示す恐ろしい現実

RISING ALARM

2024年3月19日(火)20時30分
マット・クラーク

newsweekjp_20240319111716.jpg

住宅用スプリンクラーの設置義務化には課題も多い VINCE COMPAGNONEーLOS ANGELES TIMES/GETTY IMAGES

全米住宅建設業者協会(NAHB)によると、46州がICCのスプリンクラー基準を拒否する法案を可決するか、スプリンクラーに関する規定を含まない建築基準を採択している。うち26州では、州内の自治体がスプリンクラーの規定を含む建築基準を採択することを禁止している。

NAHBの関係者は、NFPAのデータには火災で死者が出た住宅の築年数が明記されておらず、死者の増加傾向の主な要因は古い住宅だと主張する。火災による死者を減らす方法としては、古い住宅に火災警報器を追加するほうが、スプリンクラーの義務化よりはるかに費用対効果が高いとも彼らは言う。建築基準法では既に、新築住宅に火災警報器の設置が義務付けられている。

「新築住宅にスプリンクラーの設置を義務付けても、基準の対象外である古い住宅の火災には対処できない」と、NAHBのジム・トビンCEOは本誌の取材に答えた。トビンによれば、火災警報器の義務化など現代の建築基準法のさまざまな要件は、「火災のリスクを軽減して、防火体制を強化するためにある」。

全米消火スプリンクラー協会によると、スプリンクラーの設置費用は新築住宅のコストの1%相当で、設置すれば住宅の価値が上がり、火災保険料を削減できる。

一方で、開発事業者が該当地域全体にスプリンクラーを設置することに同意すれば、利益を増やすために住宅を密集させる、道幅を狭くする、消火栓の数を減らすなどの方策を認めている管区もある。

古い住宅に多い火災リスク13年のNFPAの調査では、全米平均の設置コストはスプリンクラーが対応する面積1平方フィート(約0.09平方メートル)当たり1.35ドルで、08年から16%減少している。既存の住宅に後から設置する場合はコストがかなり高くなることもあり、歴史的建造物では1平方フィート当たり10ドルという試算もある。

NFPAのデータによると、死者が出た住宅火災の最大の原因は屋内での喫煙だが、古い住宅ほど暖房機器や古い家電製品、配線の欠陥など火災の原因となるリスクを抱えている。そこで多くの州は火災警報器の設置費用を全額支援しており、複数の州の消防当局は本誌の取材に対し、避難計画を立てることや、夜間は寝室のドアを閉めるなど、実証済みの防火対策を強調している。

ジェレイシによれば、メリーランド州ではスプリンクラー設置を義務付けて以来、設置住宅での死亡火災事故は1件も起きていない。昨年初めに未設置の住宅での死亡火災事故が急増した後、ジェレイシは住民に警鐘を鳴らした。

「現状に安心してしまうものだ。自分は大丈夫、隣の家や通りの向こうに住んでいる人に起こることだ、そう思っている。夜中の2時に自分の家で火事が起きるなんて考えない。自分の家の火災警報器が作動しているかどうかも確認しない」

火災警報器が設置されて作動しても、最近の住宅火災は屋内にいる人が逃げることができる時間が短いと、FSRIのカーバーは指摘する。実際、火災による死者の5人に2人は、火災警報器が設置された住宅で命を落としている。

カーバーはスプリンクラーの重要性を強調して次のように語る。「火の回りがあまりに速いことを考えれば......火災警報器でも間に合わないときがある。この国は火災による死者をどこまで容認するつもりなのだろうか」

20250408issue_cover150.png
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年4月8日号(4月1日発売)は「引きこもるアメリカ」特集。トランプ外交で見捨てられた欧州。プーチンの全面攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

訂正(発表者側の申し出)-ユニクロ、3月国内既存店

ワールド

ロシア、石油輸出施設の操業制限 ウクライナの攻撃で

ビジネス

米相互関税は世界に悪影響、交渉で一部解決も=ECB

ワールド

ミャンマー地震、死者2886人 内戦が救助の妨げに
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 2
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2人無事帰還
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    あまりにも似てる...『インディ・ジョーンズ』の舞台…
  • 6
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 7
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 8
    「隠れたブラックホール」を見つける新手法、天文学…
  • 9
    イラン領空近くで飛行を繰り返す米爆撃機...迫り来る…
  • 10
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 3
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 4
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 5
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 6
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 7
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中