最新記事
住宅

逃げるための時間はわずか4分! 「燃えやすく」「助かりにくい」現代の住宅...米データが示す恐ろしい現実

RISING ALARM

2024年3月19日(火)20時30分
マット・クラーク

newsweekjp_20240319111646.jpg

ILLUSTRATION BY CSA IMAGES/GETTY IMAGES

メリーランド州では昨年1~3月の死者数が40人近くに達し、過去最多だった04年以降では最も多くなった。これを受けてジェレイシは報道陣への書簡で安全基準遵守を呼びかけた。「この状況は非常に遺憾で心から懸念している。直ちにこの傾向を鈍化させる要がある」

NFPAの住宅火災関連死のデータには一戸建てや2世帯・3世帯などの多世帯住宅、コンドミニアム、アパート、プレハブ住宅は全て含まれるが、ホテル、モーテル、寄宿舎、下宿屋は含まれない。NFPAによれば、21年の火災全体の死者は3800人で、その4分の3が住宅火災による死者だったという。死者総数のうち山火事など屋外での火災による死者は110人で、19年の140人から減少している。

住宅火災と同様、車両火災による死者も過去最低だった09 年の260人から21年は650人と増加し、1992年(665人)以降では最も多くなった。内装にウレタンフォームなど化学製品が使われるようになっているせいだと専門家は言う。

車両火災の場合も住宅火災と同様、火災自体は減少しているのに死者は増えている。車両火災は史上最多だった1988年の45万9000件(死者数も史上最多の800人)か2013年は16万4000件(死者300人)に減少。21年は17万4000件だった。

メリーランド州の車両火災では、車のエンジンや燃料経路から出火し車内に閉じ込められた場合に死者が発生していたと、ジェレイシは言う。「今や車もプラスチック製品だらけで火の回りが速くなっている」

州当局や専門家は、家具にウレタンフォームを使うなとは言っていない。火災警報器などの安全策の重要性について意識向上を図れば、油断を戒め、死者数減少に役立つと主張している。ただし、最も効果的に対処できるのは住宅用スプリンクラーだけだと指摘する。

「正さなければならない問題はたくさんあり、そのために最も迅速で最も簡単な方法が住宅用スプリンクラーだ」と、民間研究機関ULの火災安全研究所(FSRI)でバイス・プレジデント兼エグゼクティブ・ディレクターを務めるスティーブ・カーバーは言う。「(スプリンクラーについては)非常に明確なデータがある。課題はコストだが、それもかなり削減が進んでいる」

建築基準による規制の難しさ

NFPAの20年の報告書によると、住宅火災で死亡する確率は、火災警報器やスプリンクラーが設置されていない住宅では、有線式の火災警報器やスプリンクラーが設置されている住宅に比べて9倍高い。それにもかかわらず、NFPAによると、50戸以上の共同住宅の3分の1しかスプリンクラーを設置していない。2戸以上の共同住宅は14%、一戸建て住宅はわずか2%だ。スプリンクラーの主な目的は火災時に人的被害を防ぐことだが、建物の被害を減らすこともできる。

スプリンクラーは室温が約65度を超えると作動するため、予期せず作動することは極めてまれだと、NFPAは説明する。映画などで一斉に散水する場面もよく見るが、火災の77%では燃えている炎の近くにあるスプリンクラーが1個だけ作動しており、散水による被害は最小限に抑えられるという。

アメリカでは州や地方自治体、管区ごとに建築規制を定める権限があり、建築安全の専門家で構成される民間機関の国際建築基準審議会(ICC)が定めた国際建築基準をモデルに、それぞれ基準を策定する。ICCは09年以降、全ての新築一戸建ておよび2戸建て住宅にスプリンクラーを設置するように求めているが、この要件を採用しているのはメリーランド州、カリフォルニア州、首都ワシントン、およびいくつかの小さな管区だけだ。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ゴールドマン、24年の北海ブレント価格は平均80ド

ビジネス

日経平均は3日ぶり反発、エヌビディア決算無難通過で

ワールド

米天然ガス生産、24年は微減へ 25年は増加見通し

ワールド

ロシアが北朝鮮に対空ミサイル提供、韓国政府高官が指
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 5
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 6
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 7
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 10
    ウクライナ軍、ロシア領内の兵器庫攻撃に「ATACMSを…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 10
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中