最新記事

「ウクライナ侵攻がなくても上がっていた?」食料価格が世界で高騰する3つの理由

2024年2月19日(月)11時30分
※JICAトピックスより転載

jica_food8.jpg

こども食堂の持つ共感力について熱心に語る三島理恵さん。JICA勤務を経て日本ファンドレイジング協会設立に携わり、NPOと寄付者をつなぐ仕組みづくりに取り組む。全国こども食堂支援センター・むすびえの立ち上げに参画し、2022年よりむすびえ理事

私たちが食を守るためにできることは

伊藤 乳幼児の時期に栄養が不足すると、幼少期だけでなく大人になった後にもその影響があるそうですね?

松井 国際的な医学誌「ランセット」によると、「人生の最初の1000日(胎児期 280 日+生後 2 年間)における栄養不足が、その後の子どもの成長に大きく影響する」という結果が2008年に出ています。食料危機と言われていますが、実は栄養危機ではないかとも考えています。

三島 日本では子どもの相対的貧困率が11.5%(2021年)です。食事の内容も家庭によって、偏りが生じてしまいます。各家庭の食事に差がある中、こども食堂では季節の野菜を食べて、いろんな食材を体験できるよう意識しています。

世良 ここまでいろいろお話してきましたが、私たちが食を守るためにできることは何でしょうか。

jica_food9.jpg

「食を守るためにできることは?」と問いを投げかける世良さん

盛田 日本の食料自給率はカロリーベースで38%と低いのですが、米の生産性は高いんですね。日本で食料自給を持続的にするのは米を作るのが効果的です。米の消費量が減ってきていますが、この食料価格高騰の中で、米の価格は上がっていないんですよ。だから米は家計にやさしい、しかも和食は健康に良いと認められていますし、米をもっと食べることが日本農業を再生させる大きな力にもなります。日本は今、基礎的食料も買い負けるような状態なので、米の消費を再生させることが世界の食料危機に対する貢献でもあります。

世良 お米を食べる食育も大切ですね。

盛田 日本はこれまではお金があれば他国から買える状態だったけれど、買い負けの話もあったように、基礎的な食料も買い負けるようになってきています。日本型の食生活の再生が世界の食料危機に対する貢献になります。食料を日本が輸入するのは他国への圧力にもなるので、日本としての責任を果たすことが重要です。国産小麦や国産大豆にも目を向け給食で味わえるようにして、日本が世界の食料需給に圧力をかけないようになってほしいですね。

三島 こども食堂では地域の農家などが寄附してくれたお米や野菜で、愛情たっぷりに作られたごはんを食べるわけですから、いずれ生産者の視点を持った大人に育つと思います。こども食堂は豊かな食文化を作る基盤でもあります。

松井 アフリカの農業開発では「米をつくります」「主食をつくります」だけではなく、それによって豊かになり、農業に若い人をひきつけることで、アフリカのポテンシャルを引き出せると思います。また、「食べることの大切さを」見直すことも重要です。特にアフリカの場合、「兵士に農機具を略奪される」「圃場を壊される」などが起こることもあり、農地がボロボロになっていきます。そのような厳しい状況の中で、「食」が、人が前を向くきっかけになるかもしれないと感じました。

世良 みなさんとお話しする中で、身近な食について知らなかった話題がたくさんありました。「国内産の食べ物を食べることで世界に圧力をかけない」など、自分にできることもあり、興味深く感じました。

(関連リンク)
小規模農民のための灌漑開発プロジェクト
アフリカ稲作振興のための共同体(CARD)

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ウクライナ紛争は26年に終結、ロシア人の過半数が想

ワールド

米大使召喚は中ロの影響力拡大許す、民主議員がトラン

ワールド

ハマスが停戦違反と非難、ネタニヤフ首相 報復表明

ビジネス

ナイキ株5%高、アップルCEOが約300万ドル相当
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足度100%の作品も、アジア作品が大躍進
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...どこでも魚を養殖できる岡山理科大学の好適環境水
  • 4
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者…
  • 5
    ジョンベネ・ラムジー殺害事件に新展開 父「これま…
  • 6
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 7
    ノルウェーの海岸で金属探知機が掘り当てた、1200年…
  • 8
    ゴキブリが大量発生、カニやロブスターが減少...観測…
  • 9
    「個人的な欲望」から誕生した大人気店の秘密...平野…
  • 10
    【投資信託】オルカンだけでいいの? 2025年の人気ラ…
  • 1
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 2
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低く、健康不安もあるのに働く高齢者たち
  • 3
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開したAI生成のクリスマス広告に批判殺到
  • 4
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 5
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 6
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 7
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 8
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 9
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 10
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中