最新記事

「ウクライナ侵攻がなくても上がっていた?」食料価格が世界で高騰する3つの理由

2024年2月19日(月)11時30分
※JICAトピックスより転載

盛田 1つ目は世界の人口の増加。インド、中国のような新興経済大国での食料需給が爆発的に増えています。ただ、これはある意味「想定内」。想定外の理由があり、そのうちの1つが「穀物の新しい用途」です。どんな使い道だと思いますか?

世良 穀物を燃料に使うことですか。

盛田 はい。今、最大のバイオ燃料の原料はとうもろこしで、アメリカが世界最大の生産国です。世界の30%ほどを生産し、そのうち4割はバイオ燃料に加工されます。

世良 4割も。それは影響が大きいですね。

盛田 3つ目は気候変動です。2023年10月のFAO(国連食糧農業機関)の報告書によると、この30年間で地球温暖化によって世界の食料生産が3.8兆ドルの被害を受けたといわれています。

世良 そうなると、もともと暑いアフリカなどの地域や発展途上国は影響が大きくなるのでは?

JICA 経済開発部 松井洋治課長(以下、松井) アフリカは気候変動による寒暖差、渇水などの影響を受けています。JICAは国際協力として大規模な灌漑を手がけてきましたが、最近は各農家が地域にある石や木、土などの材料を使って作る小さな灌漑「小規模農民のための灌漑開発プロジェクト」(COBSI: Community-Based Smallholder Irrigation)を推進しています。従来の灌漑には多額の資金がかかり、政府や農家が維持費を出せませんでした。そうした中、「小さな灌漑」がザンビアで広がっています。水が少ない乾季も灌漑によって川の水を引く、補給灌漑も進めています。

jica_food5.jpg

小さな灌漑COBSIを作っている様子

世良 大きな灌漑と小さな灌漑では、どのぐらい経済負担が違うのですか。

松井 大きな灌漑は数十億円ですが小さな灌漑は1ドル程度で作れます。乾季には、せき止めている水を畑に流すことができ、雨季には灌漑自体が流されてしまいますが、石と土でできているので、次の乾季には農家がまた自分たちで作り直せます。費用対効果が大きいのです。たまった水を畑に流せて、小さな灌漑で農家30~40人の畑を支えられるんです。

世良 1ドル程度ですごい効果ですね。今後、食料価格の高騰がおさまることはないんでしょうか。

盛田 私は20年〜30年は続くと考えています。人口増加、バイオ燃料、気候変動という3つの要因は簡単に解決できません。農作物の収穫量を増やそうとしても環境や地下水の汚染問題などがあり、生産に限界があります。

伊藤 そんな中、日本は世界的に食料自給率が低く、「買い負けている」と言いますね。

世良 買い負けるとは?

松井 海外から食料を買ってこられる量や力が弱くなることです。為替の強い国や、人口が急増している新興国は大口で購入しますが、日本は海外のバイヤーと競争したときに必要な量を買えなくなっています。長期的な買い負けもあれば、日本の不作時に緊急的に買い負けることもあります。

世良 ショッキングな話ですね。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

G20首脳会議が開幕、米国抜きで首脳宣言採択 トラ

ワールド

アングル:富の世襲続くイタリア、低い相続税が「特権

ワールド

アングル:石炭依存の東南アジア、長期電力購入契約が

ワールド

中国、高市首相の台湾発言撤回要求 国連総長に書簡
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やってはいけない「3つの行動」とは?【国際研究チーム】
  • 2
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネディの孫」の出馬にSNS熱狂、「顔以外も完璧」との声
  • 3
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 4
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 5
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベー…
  • 6
    「裸同然」と批判も...レギンス注意でジム退館処分、…
  • 7
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 8
    Spotifyからも削除...「今年の一曲」と大絶賛の楽曲…
  • 9
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 10
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 4
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 5
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
  • 6
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 7
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 8
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 9
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 10
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 10
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中