最新記事
日本経済

学力レベルは高いのに日本の労働生産性が低いのはなぜか?

2024年1月17日(水)11時20分
舞田敏彦(教育社会学者)

あと1つは、人の処遇に関することだ。こちらも変化の兆しはあるものの、日本では年功賃金が主流で、年齢別の賃金カーブの傾斜は他国と比べて大きい。男女の差も大きく、職務や能力をきちんと反映しているのかと疑問に思うほどだ。

有業男女を読解力レベルに応じて3つのグループに分け、年収が高い者(上位25%以上)のパーセンテージをグループごとに出してみる。<図2>は、日本とアメリカの結果を棒グラフにしたものだ。

data240117-chart02.png


当然というか、学力が高いグループほど高年収の者の出現率は高い(右上がり)。しかし日本は、学力の水準を問わず女性の年収は低い。最も驚くべきは、高学力女性より低学力男性の稼ぎが多いことだ。女性は結婚・出産に伴い、多くが家計補助のパート等に移行するためだろう。

読解力が職務遂行の潜在能力に当たると仮定するなら、能力よりもジェンダーがモノをいう国ということになる。「何ができるか」よりも「何であるか」、能力よりも地位に対してお金が払われる国だ。

高い学力(潜在能力)と低い労働生産性。この奇妙な組み合わせを解釈する材料は数多い。人口の減少(高齢化)が加速度的に進む中、少ない労働力で社会を回していかなければならなくなる。学校現場では、教員業務支援員といったスタッフを増やすことばかりが提言されているが、人海戦術には限界があることに気付くべきだ。膨大な業務の削減(効率化)に重きを置くべきで、校務のICT化はその最たる手段となる。

何よりも念頭に置かなければならないのは、正当な能力主義への移行だ。これがないと、子ども期の学校教育で高い資質・能力を育んだとしても、社会の発展や維持存続にあまり活かせない。とくに人口の半分を占める女性の能力の未活用は、大きな損失と言っていい。

<資料:日本生産性本部「労働生産性の国際比較 2023」
    OECD「PIAAC 2012」

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

訂正-米テキサス州のはしか感染20%増、さらに拡大

ワールド

米民主上院議員、トランプ氏に中国との通商関係など見

ワールド

対ウクライナ支援倍増へ、ロシア追加制裁も 欧州同盟

ワールド

ルペン氏に有罪判決、次期大統領選への出馬困難に 仏
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 2
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者が警鐘【最新研究】
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 5
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 6
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 7
    3500年前の粘土板の「くさび形文字」を解読...「意外…
  • 8
    メーガン妃のパスタ料理が賛否両論...「イタリアのお…
  • 9
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 10
    「関税ショック」で米経済にスタグフレーションの兆…
  • 1
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 2
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 3
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 4
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 5
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】アメリカを貿易赤字にしている国...1位は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中