「戦闘に勝って戦争に負ける」民間人の犠牲拡大に米政府が戦争遂行への3つの疑問をイスラエルに提起
HOW MANY IS TOO MANY?
イスラエル空軍のオメル・ティシュラー参謀長らによれば、開戦1週目には、空軍機が攻撃目標を知らずに離陸し、空中で標的の位置を指示されるケースもあった。
本誌の取材に匿名で応じた軍幹部によれば、当時はハマスの軍事力をそぐことが最優先だったため、民間施設やその近くでも容赦しなかったという。
米・イスラエル両国の軍事筋によると、初期段階でイスラエルが使用したのは爆弾から迫撃砲、ロケット弾に至るまで、ほぼ全てが精密誘導弾だった。
人口が密集した都市部で、隣接する民間施設などへの被害を最小限に抑えるための配慮であり、イスラエル軍は以前からそうしてきたという。
またイスラエル軍によれば、一連の攻撃でクラスター爆弾や白リン弾は使用していない。
それでもガザ地区のように狭くて人口の密集した場所で、いっぺんに1200もの標的をたたく軍事作戦は前代未聞だ。
国際社会からの反発が高まるにつれ、バイデン政権はイスラエル軍の作戦行動についての検討を始めた。
前出の空軍将校が本誌に語ったところでは、イスラエル軍による爆撃の範囲は米軍の想定よりも広く、(少なくとも最初の2週間は)米軍なら使わないはずの大型爆弾を多数投下していた。
また米空軍と国防情報局の報告によると、イスラエル軍は敵の戦闘員が既に脱出してもぬけの殻となった標的にも攻撃を加えていた。
建物を破壊し、二度とハマスが使えないようにするためだ(こうした攻撃は国際法違反と見なされる可能性があるため、今の米軍は行っていない)。
世論の圧力と批判が高まるにつれ、イスラエル政府は反論を試みた。
「『民間人』ないし『民間施設』と目されるものを標的にしたという事実だけで違法な攻撃と結論することはできない」。
イスラエル軍は法的な正当性を調査した白書にそう記し、さらに「わが軍の求める軍事的利益には、敵の軍事資産の破壊、戦闘員の殺害、敵の指揮命令系統の弱体化、軍事目的で利用される地下トンネルやインフラの無力化、わが軍の地上部隊を危険にさらす拠点の破壊などが含まれる」と続けている。
法的には、それで正しいのかもしれない。
しかし、瓦礫と化したガザの惨状や血まみれの子供たちの遺体を捉えた写真や動画ほどの説得力はない。
現にバイデン政権内部の議論では、国防長官を含む複数の幹部からイスラエルの主張を疑問視する声が上がり、そうした意見がイスラエル軍にも伝えられたという。