目標だった「福田ドクトリン」は今や現実に 日本とASEAN50年の歩みと、これからの協力関係
さらなる課題解決には民間との連携が不可欠
──成長著しいASEAN地域ですが、近年の課題にはどんなものがありますか。
早川 「地域内格差」の問題に加えて、近年は「高齢化」「都市問題」「気候変動」といった新たな課題にも直面しています。また、域内で発展を続ける国々が、中所得国になった後で成長が滞る「中進国のわな」に陥る可能性も指摘されています。ビジネス環境の改善や産業の高付加価値化支援などを通じて、そのわなを乗り越えられるよう、JICAとしても支援していきたいと考えています。
これらの課題は日本においては民間企業に多くの知見があると考えられる分野ですので、今まで以上に民間セクターとの連携を深めていくことが、課題解決に向けて不可欠と考えます。特にASEAN地域は、他の地域と比べて、日本の経済産業界との結びつきが非常に強く、進出企業の数、投資金額、さらに人的ネットワークなどをみても段違いに厚みがあります。企業側はASEAN地域の動向に精通していますので、相手国側だけでなく企業の方々の声にもよく耳を傾けなければ、正確な事実関係は把握できません。
JICAとしては、官民連携を通じて、民間の資金や技術・知識など外部のリソースを巻き込み、JICAの狙う協力をより拡充していくと同時に、各企業の活動を、例えば開発やサステイナビリティの視点からより良いものにする支援なども検討して、さらに効果の大きい協力を生みだしていきたいと思っています。
共に成長する真のパートナーとして
──日本は今後ASEAN諸国からどのような役割を期待されているのでしょうか。
早川 これまで同様、共に成長する真の信頼できるパートナーであり続けてほしい、という期待を感じています。それはまさしく「ASEANと『心と心の触れあう』関係を構築する」「日本とASEANは対等なパートナーである」と述べた「福田ドクトリン」そのものだとも言えます。1977年に表明されたこのASEAN重視の外交政策は、当時は「こうあるべき」という規範であり目標でもあったと思いますが、今や、まさにそれらが現実のものとなっています。
またASEAN諸国との間では旅行者や働き手の往来も大きく増えており、貿易・投資・金融をはじめ、学術研究、ポップカルチャーなど、他地域に比べても堅固なつながりになっています。その中でJICAが果たせる役割は、より触媒的なものになっていくと考えています。