最新記事
ASEAN

目標だった「福田ドクトリン」は今や現実に 日本とASEAN50年の歩みと、これからの協力関係

2023年12月15日(金)16時00分
※JICAトピックスより転載

──JICAによる協力の成果をどう評価していますか。

早川 日本と東南アジアの協力は、ビジネスや民間ベースの協力・交流を含めて複層的なものであって、ODAの果たした役割はその一部ですが、全体として日本の協力はうまくいったと評価して良いのではないでしょうか。JICAのさまざまな協力は人づくり・国づくりの支えとなり、また各国の民間セクターの発展のベースとなり、ASEAN地域の開発と経済発展に大きく貢献したと思っています。そして、それ以上に大事だと思うのは、日本がASEAN諸国の成長を信じて長期にわたり協力してきた歩みです。

今でこそマレーシアやタイに続きインドネシアは中進国の仲間入りをし、ベトナムやフィリピンもそのすぐ後を追っています。しかし1980年代から90年代にかけては、国際社会はASEAN諸国がこの先、順調に発展するかどうか確信を持っていなかったと思います。一部の国はいったん高成長を達成したものの、その後97年のアジア通貨危機で大きなダメージを受けたこともあり、当時の国際的な開発協力のコミュニティは、多くの途上国が貧困削減のために援助に依存する姿しかみえず、ASEAN諸国が成長していく道筋を描けずにいたのです。

しかし、私たちは、日本が戦後大きく成長したように、ASEAN地域が発展することを信じて疑いませんでした。だからこそJICAは、ASEAN諸国自身の成長への思いに寄り添いながら、共にビジョンを描き、その達成に向けた計画作りを進めてきました。長期的な視野に立ち、ASEAN諸国の政府や人々の主体性を重んじ、現場で共に国づくり・人づくりを推進してきた姿勢こそ、最も評価してもらえるのではないかと思います。この姿勢は決してODAに限られるものではなく、民間企業、NGOや研究者の方々など多くの日本の関係者に共通したものだと思いますし、それが東南アジアの人々の親日度や日本への信頼につながったと考えています。

jicaasean_6.jpg

マレーシアでは日本の近代化を手本とする東方政策の一環として、両国共同でさまざまな人材育成活動が進められてきた。写真は河川における水質調査に関わるJICAの研修(写真提供:Khairul Fadzilah binti Mohd. Omar)

──ASEANに対するJICAの重点領域の一つに、「ASEANの連結性強化」 があります。これはどのような協力なのでしょうか。

早川 ASEANがこれほど発展した要因の一つとして、90年代まで続いたインドシナ半島での戦乱を最後に、地域に大きな紛争がなく安定が続いていることが挙げられます。「戦場から市場へ」の呼びかけのもと、各国政府はときには合意に至らずとも対話を重ね、また団結すべきときは一体となって、ASEANという枠組みを作り上げてきました。地域の安定はまさしく成長の源です。この発展を維持していくためには、域内で紛争が起こりようもない状況を保てるよう結束性を高め、さらに地域としての長期的ビジョンを共有することが大切です。

ASEAN原加盟国(1967年に加盟した5カ国)と後期加盟国との間に広がる「地域内格差」を是正するという意味でも、「連結性」はASEANにとって非常に重要なキーワードと言えます。JICAでは、各国をつなぐ道路や橋といったインフラ整備などによる物理的な連結性、物流の円滑化を図る通関システムなど制度的な連結性、そして、人と人とのつながりを重視した高等人材・産業人材の育成、研修、大学・研究機関の間や人的なネットワーク強化といった人と人との連結性という3つの観点から、域内の結束を高める取り組みをサポートしています。

aseanjica_2.jpg

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

中国、ハードテクノロジー投資のVCファンド設立=国

ワールド

金・銀が最高値、地政学リスクや米利下げ観測で プラ

ワールド

中国、26─30年に粗鋼生産量抑制 違法な能力拡大

ビジネス

26年度予算案、過大とは言えない 強い経済実現と財
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指すのは、真田広之とは「別の道」【独占インタビュー】
  • 4
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 5
    「時代劇を頼む」と言われた...岡田准一が語る、侍た…
  • 6
    「衣装がしょぼすぎ...」ノーラン監督・最新作の予告…
  • 7
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 8
    「個人的な欲望」から誕生した大人気店の秘密...平野…
  • 9
    ノルウェーの海岸で金属探知機が掘り当てた、1200年…
  • 10
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 4
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 5
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 6
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 7
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 8
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 9
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦…
  • 10
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 6
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 7
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 8
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中