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脱炭素

スキーを愛するからこそ「脱炭素」に真剣に向き合う、アスリート・渡部暁斗

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2023年11月15日(水)11時15分
写真:牧野智晃 原稿:中野悦子(※「エコジン」より転載)
渡部暁斗さん

ノルディック複合のスキー選手として輝かしい成績を収めてきた渡部暁斗さん。地球温暖化により雪が減っている現実を目の当たりにして危機感を覚え、現在は「脱炭素」に積極的に取り組んでいます。現役選手でありながら、なぜこのような活動を始めたのか。2022-23年シーズンから渡部さんが導入した「エコパートナー」とはどのようなものなのか。熱い想いを語っていただきます。

雪や氷河の減少を目の当たりにし、自身が環境に与えている負荷を調べてみた


冬季五輪はソチ、平昌、北京と3大会連続で出場し、4つものメダルを獲得しているノルディック複合選手の渡部暁斗さん。環境の変化への危機感を覚えたのは、20年近くトレーニングで訪れているオーストリアの氷河が減り続けていると実感した時でした。

「標高2700mまで上がることができるオーストリアのダハシュタイン氷河には、秋のトレーニングで毎年のように訪れています。そこで気になっていたのが、氷河の量です。見た目にも年々減ってきているのがわかりましたし、雪が足りずにコースが閉鎖される時期も増えてきていたんです。同じ氷河を長く見続けてきたからこそ、環境の変化をダイレクトに感じることができたんだと思います」

渡部暁斗さん

2012年秋のオーストリアのダハシュタイン氷河。

競技シーズンが終わり、3月の末に日本に帰ってからは、春山でバックカントリースキーをするのが楽しみのひとつだという渡部さん。ここでも、ヨーロッパと同じような環境の変化を目の当たりにします。

「バックカントリースキーは地元の長野で楽しみます。毎年同じポイントで休憩するので、数年前と比べると、自分の身長を越えるほどの積雪が少なくなっていることがわかるんです。さらに、融雪も早くなっている。僕が子どもの頃は、ゴールデンウィークを過ぎても営業しているスキー場が多かったのですが、今は3月末から4月頭までしか雪がもちません。両親が"雪かきの手間がなくなって楽になった"と言うくらい、積雪量も融雪スピードも大きく変わってきていると感じていました」

長野県のスキー場

数年前までは積雪量が多く、木の枝に腰掛けるのも簡単だった(左)。だが2023年、同じ枝は手が届かない状態に(右)。長野県のスキー場で。

こうして、さまざまな場所で環境の変化に対する危機感を覚えた渡部さんは、まずどのくらい環境に負荷をかけているのかが数値として目に見える、「カーボンフットプリント(※1)」について調べることにしました。国連の二酸化炭素排出量計算ツールによると、自身の競技活動やご家族の普段の生活を含む世帯当たりの年間排出量が約70トンになることがわかり、驚いたといいます。

「大きなウェイトを占めていたのは移動で、飛行機が57%、食事に関わる部分が26%、電気が10%、車が7%でした。遠征に行くという行為自体が、驚くほど環境に負荷をかけているとわかりました。アスリートは競技で結果を残すほど海外遠征が増えるので、どの競技でも競技力が上がるとカーボンフットプリントも上がっていくと思います。国連の計算ツールに記載されていた、一般の方の一世帯当たりの年間平均排出量が約38トンだったので、僕たちはほぼ2倍。『競技者だから仕方ない』では済まされないと、責任の大きさを感じました」

それまでは、雪山の変化がわかっていながらも、アスリートとして競技で結果を残すことに集中し、環境問題からは目を背けていた、という渡部さん。環境問題に取り組むなら、まずは自分が排出している70トンもの二酸化炭素をなんとかしなければ、と思い立ち、「カーボン・オフセット(※2)」をするために始めた取り組みが「エコパートナー」です。


※1 個人や団体、企業などが生活・活動していく上で排出される二酸化炭素などの温室効果ガスの量をCO2に換算して表したもの。
※2 日常生活や経済活動において避けることができないCO2等の温室効果ガスの排出について、まずできるだけ排出量が減るよう削減努力を行い、どうしても排出される温室効果ガスについて、排出量に見合った温室効果ガスの削減・吸収活動に投資すること等により、排出される温室効果ガスを埋め合わせるという考え方。

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