最新記事
動物

メスと交尾するためならその子供を食べてしまう...... オスのツキノワグマに装着したカメラがとらえた衝撃映像

2023年11月4日(土)19時30分
小池 伸介(ツキノワグマ研究者) *PRESIDENT Onlineからの転載

首輪を回収しなければカメラのデータは見られない

しかし、やってみないことにはどうなるかはわからないし、問題点の洗い出しもできない。そこで、メーカーでは保証はしないという条件で購入し、クマに装着することにしたのである。これが2014年のことだ。

最初に購入したモデルは、まだハイビジョン撮影もできず、録画可能時間も4〜5時間だった。買った首輪は、まず奥多摩のクマに装着した。首輪はタイマーを設定して自動的に外すことができる。しかし、クマはしょっちゅう崖を上ったり木に登ったりするので、勝手に外れる設定だとどこに落とされるかわからない。カメラが録画したデータは内蔵メモリに記録される。つまり、首輪を回収しなければ見ることができないのだ。

「リアルタイムで録画データを転送したりできないの?」

そう思った人もいるだろう。ただ、データ転送は電力消費が激しいので、すぐに電池が切れてしまう。

だから、GPSでクマの位置を確認し、「ここで落とせば拾えるぞ!」というタイミングでリモコンを使って落とすことにした。

それでも、首輪は思わぬところに落ちてしまう。例えば学生がリモコンで落としたところ、首輪が崖を転がってしまい、滝の踊り場のようなところに落ちてしまったことがあった。

季節は6月の梅雨時。滝は水量が多くてとても手が出せなかった。こうなると回収作業は水量が減る梅雨明けである。問題は現場だ。どうやら沢登りやロープワークの経験がある私にも歯が立たない難所らしい。

高度な機械があっても使いこなすには結局体力がいる

そこで私は助っ人を呼んだ。研究室の後輩の後藤優介君である。彼はクライミングのスキルがあって運動神経が抜群のスパイダーマンのような男だ。大学を離れてしばらくは富山県の立山カルデラ砂防博物館に勤めていたが、茨城県自然博物館の学芸員として関東に戻ってきた。それからはお助けキャラのごとく学生をサポートし、たびたび研究室のピンチを救ってくれている。

このときも梅雨明けを待って首輪を落としたと思われる場所まで案内すると、ザイルを使ってスルスルと滝を登り、危なげもなく首輪を回収してくれたのだった。

器用な学生が蔓を伝って木を登り、上のほうの枝に引っかかった首輪を回収したこともあった。

GPSと小型カメラを搭載した高度な機械を使っているのに、上手に使いこなすには体力やクライミングのような生身の技術が要求される。そういうところもフィールドワークの面白さかもしれない。

展覧会
京都国立博物館 特別展「日本、美のるつぼ」 鑑賞チケット5組10名様プレゼント
あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

豊田織機の非公開化報道、トヨタ「一部出資含め様々な

ビジネス

中国への融資終了に具体的措置を、米財務長官がアジア

ビジネス

ベッセント長官、日韓との生産的な貿易協議を歓迎 米

ワールド

アングル:バングラ繊維産業、国内リサイクル能力向上
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 3
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航勧告を強化
  • 4
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 5
    アメリカ鉄鋼産業の復活へ...鍵はトランプ関税ではな…
  • 6
    関税ショックのベトナムすらアメリカ寄りに...南シナ…
  • 7
    ロケット弾直撃で次々に爆発、ロシア軍ヘリ4機が「破…
  • 8
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 9
    ビザ取消1300人超──アメリカで留学生の「粛清」進む
  • 10
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中