「アフリカの危機は人類の課題」連携強化に向けた日本の役割とは【TICAD30年】
田中 人材育成における代表的な取り組みとしては、2013年のTICADVで提唱された「アフリカの若者のための産業人材育成イニシアティブ(ABEイニシアティブ)」があります。日本の大学での修士号取得と企業でのインターンシップの機会を提供するプログラムで、これまでに1,600人以上が参加しています。帰国後は多くの修了生が日本企業とのつながりを維持し、母国で起業したり、日本企業との仲介役を担うなど、まさしく日本とアフリカの架け橋になっています。
製造業育成のため、日本式の品質・生産性向上の手法を取り入れた「カイゼン」プロジェクトも、2000年代のチュニジア・エチオピアを皮切りに、2016年のTICADVI以降、多くのアフリカ諸国に広がっています。現地の事情に合わせて、どうしたら無駄なく効率よく生産できるか、日本人専門家が丁寧にアドバイスしています。
どの取り組みもJICAだけで行っているわけではありません。JICAの取り組みに対して国内の民間企業や大学から協力を得ているほか、それぞれの国や開発機関などと共に進め、ある国の好事例が他国に波及していく形で広がっています。
──アフリカの将来的な成長や社会経済の安定化に向け、JICAは今後どのような取り組みに注力していきますか。
田中 アフリカ側からは民間投資の底上げを期待する声が高まっています。それには、日本の民間企業がアフリカできちんとビジネスできる基盤をつくることが不可欠です。しかしインフラ整備や制度・仕組みづくりなど、アフリカ諸国の政府だけではそうした基盤を整備することは難しい。このような基盤づくりにJICAのような開発機関が協力していくことが必要だと考えています。
中でも、広大なアフリカの国々を結ぶ「コネクティビティ(連結性強化)」への取り組みは重要です。港湾、道路、送電線などのインフラを整備し、沿岸部と内陸部、都市部と農村部の格差を是正させるために、「回廊(コリドー)」と呼ばれる重要幹線の整備を進めていきます。
他には、アフリカ発のスタートアップ(新興企業)支援があります。スタートアップ企業の成功率は低いかもしれません。ただ、失敗を恐れていては、本当に成長するスタートアップは生まれてこない。ですから、まずは挑戦を可能にする「シード(種)」となる資金へのアクセスや、スタートアップの挑戦を支える関係機関の能力強化や制度整備などのエコシステム構築支援を行うことが大事です。