最新記事
教育

「高校無償化」以降も私立高校の学費負担は解消されていない

2023年7月12日(水)11時00分
舞田敏彦(教育社会学者)

現行の制度では、私立高校の支給額も公立と同じ年額11万8800円で、年間の授業料には到底足りない。年収590万円未満の家庭の場合は割増され、最大年額39万6000円が支給されるが、これでも年間の授業料には足りないケースが多いだろう。足りない分は各家庭が払うことになるが、入学金や制服代、通学費等の諸費用も加わると負担は大きくなる。

高校生1人あたりの教育費と、高校就学支援金の額を対比すると<表1>のようになる。上段は公立、下段は私立のデータだ。

data230712-chart02.png

保護者が支出する学校教育費(授業料、入学金、設備費、制服代、通学費など)と、支給される支援金との差額は、私立高校では大きい。お金がかさむ1年時でみると、通常の支給額(年額11万8800円)の場合は90万円、マックスの支給額(年額39万6000円)でも62万円が家庭の負担となる。

これをどう見るかは人によって分かれるが、私立高校での学費滞納を報じるニュースを見かけることを考えると、私立では支援金の額が十分ではないのかもしれない。経済的理由による中退者数が、私立では不安定な波動を繰り返しているのは、<図1>のグラフで見た通りだ。

地方では公立に落ちた生徒(多くが低所得層)が私立に行く、という現実もある。高校生の3人に1人は私立生(東京では6割)で、高校教育の大きな部分を担っている。在籍する生徒の家庭背景も多様で、私立の家庭は富裕層が多い、という先入観を持つべきでない。

高校就学支援金制度の有効性について、現場はどう考えているか。意識調査を実施し、必要であれば設計を見直すことも求められる

<資料:文科省『子供の学習費調査』(2021年)
    文科省「高等学校等就学支援金リーフレット」

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

豊田織機の非公開化報道、トヨタ「一部出資含め様々な

ビジネス

中国への融資終了に具体的措置を、米財務長官がアジア

ビジネス

ベッセント長官、日韓との生産的な貿易協議を歓迎 米

ワールド

アングル:バングラ繊維産業、国内リサイクル能力向上
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 3
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航勧告を強化
  • 4
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 5
    アメリカ鉄鋼産業の復活へ...鍵はトランプ関税ではな…
  • 6
    関税ショックのベトナムすらアメリカ寄りに...南シナ…
  • 7
    ロケット弾直撃で次々に爆発、ロシア軍ヘリ4機が「破…
  • 8
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 9
    ビザ取消1300人超──アメリカで留学生の「粛清」進む
  • 10
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中