ストーリーの軸は「忍耐力」──ヒマで「情けない皇太子」が「尊敬される国王」になる伝記は売れるのか?
Salvaging King Charles
「忍耐の大切さを説く感動的な物語」との触れ込みだが LITTLE GOLDEN BOOK, COURTESY PENGUIN RANDOM HOUSE
<チャールズ国王の子供向けの伝記が7月に出版される。宣伝文句は「小さな子供たちに忍耐の大切さを説く感動的な物語」。これをわが子に買いたい親がいるのか>
テロや自然災害、銃乱射事件など、ショッキングなニュースがあると、その悲劇を子供たちにどのように説明すべきかがいつも話題になる。
では、チャールズ英国王の戴冠のニュースはどうだろう。子供たちは、不思議に思っているかもしれない。70代まで母親の死を待って生きてきた人物のことで、大人たちはなぜ大騒ぎしているのか。
この問いに答えるために、出版大手ペンギン・ランダムハウス傘下の児童書レーベル、リトル・ゴールデン・ブックスは7月、伝記絵本『国王チャールズ3世』を出版する。
絵本の作者ジェン・アリーナが直面した困難は、全ての英王室ウオッチャーが直面しているものと同じだ。何十年もの間、暇を持て余して過ごすほかなかった人物を、どうやって英雄と位置付けるべきか。
人々は皇太子時代のチャールズを嫌う理由をいろいろ挙げていた。愛してもいない女性と結婚し、その女性を裏切ってほかの女性と不倫関係にあったこと、頭が固くて現代建築を理解できないこと、次男を冷たく遠ざけたこと......。
けれども私が思うに、人々がチャールズを小ばかにしてきた本当の理由は、ある一点に集約できる。それは、国王になるべく生まれてきたのに、いつまでたっても国王になれなかったことだ。
しかし国王に即位した以上、チャールズを情けない皇太子ではなく、尊敬すべき国王と位置付ける必要がある。では、『国王チャールズ3世』はそれに成功しているのか。
出版元は、この絵本をこう売り込んでいる──「幼い女の子と男の子に忍耐の大切さを説く感動的な物語」。
でも、いわば棚ボタのご褒美を待って長い年月を無為に過ごせと、わが子に教えたい親がどれだけいるだろうか。
国王とホビットの共通点
これまでリトル・ゴールデン・ブックスは、さまざまな人物の伝記絵本を出版してきた。しかし、現実世界の人物はしばしば、多くの人の尊敬を集める側面と、厳しく非難されるべき側面の両方を持っている。
子供向けの本の大多数がノンフィクションではなくフィクションなのは、この点が一因なのかもしれない。