最新記事
英王室

ストーリーの軸は「忍耐力」──ヒマで「情けない皇太子」が「尊敬される国王」になる伝記は売れるのか?

Salvaging King Charles

2023年5月23日(火)14時20分
ローラ・ミラー(コラムニスト)
チャールズ国王

「忍耐の大切さを説く感動的な物語」との触れ込みだが LITTLE GOLDEN BOOK, COURTESY PENGUIN RANDOM HOUSE

<チャールズ国王の子供向けの伝記が7月に出版される。宣伝文句は「小さな子供たちに忍耐の大切さを説く感動的な物語」。これをわが子に買いたい親がいるのか>

テロや自然災害、銃乱射事件など、ショッキングなニュースがあると、その悲劇を子供たちにどのように説明すべきかがいつも話題になる。

では、チャールズ英国王の戴冠のニュースはどうだろう。子供たちは、不思議に思っているかもしれない。70代まで母親の死を待って生きてきた人物のことで、大人たちはなぜ大騒ぎしているのか。

この問いに答えるために、出版大手ペンギン・ランダムハウス傘下の児童書レーベル、リトル・ゴールデン・ブックスは7月、伝記絵本『国王チャールズ3世』を出版する。

絵本の作者ジェン・アリーナが直面した困難は、全ての英王室ウオッチャーが直面しているものと同じだ。何十年もの間、暇を持て余して過ごすほかなかった人物を、どうやって英雄と位置付けるべきか。

人々は皇太子時代のチャールズを嫌う理由をいろいろ挙げていた。愛してもいない女性と結婚し、その女性を裏切ってほかの女性と不倫関係にあったこと、頭が固くて現代建築を理解できないこと、次男を冷たく遠ざけたこと......。

けれども私が思うに、人々がチャールズを小ばかにしてきた本当の理由は、ある一点に集約できる。それは、国王になるべく生まれてきたのに、いつまでたっても国王になれなかったことだ。

しかし国王に即位した以上、チャールズを情けない皇太子ではなく、尊敬すべき国王と位置付ける必要がある。では、『国王チャールズ3世』はそれに成功しているのか。

出版元は、この絵本をこう売り込んでいる──「幼い女の子と男の子に忍耐の大切さを説く感動的な物語」。

でも、いわば棚ボタのご褒美を待って長い年月を無為に過ごせと、わが子に教えたい親がどれだけいるだろうか。

国王とホビットの共通点

これまでリトル・ゴールデン・ブックスは、さまざまな人物の伝記絵本を出版してきた。しかし、現実世界の人物はしばしば、多くの人の尊敬を集める側面と、厳しく非難されるべき側面の両方を持っている。

子供向けの本の大多数がノンフィクションではなくフィクションなのは、この点が一因なのかもしれない。

展覧会
京都国立博物館 特別展「日本、美のるつぼ」 鑑賞チケット5組10名様プレゼント
あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏とゼレンスキー氏が「非常に生産的な」協議

ワールド

ローマ教皇の葬儀、20万人が最後の別れ トランプ氏

ビジネス

豊田織機が非上場化を検討、トヨタやグループ企業が出

ビジネス

日産、武漢工場の生産25年度中にも終了 中国事業の
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 3
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航勧告を強化
  • 4
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 5
    アメリカ鉄鋼産業の復活へ...鍵はトランプ関税ではな…
  • 6
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 7
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 8
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 9
    関税ショックのベトナムすらアメリカ寄りに...南シナ…
  • 10
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 6
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 7
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中