自軍の無駄死にもお構いなし──傭兵部隊ワグネル、比類なき残虐の理由とは?
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彼らとワグネルという組織、そしてロシア社会との関係も、昔の傭兵制度のそれと基本的には同じと言えそうだ。筆者の専門は17世紀における傭兵の歴史だが、21世紀のワグネル戦闘員たちも、自分たちは平和な市民社会と無縁な世界に生きているが、一般市民よりも高貴な存在だと信じて疑わない。だから、祖国で平和に暮らす人たちは自分たちに敬意を払うべきだと考えている。ワグネルに参加した元受刑者たちがプリゴジンに付き従う理由の1つは、プリゴジンの率いるワグネルなら国民に尊敬されると信じ、戦場で命を落としても「名誉の戦死」とたたえてくれると確信しているからだ。
ワグネルとロシア政府の軋轢は、現代の独裁国家に多く見られる「権力構造の多頭制」の一例だ。こうした構造においては、政府の機能を複数の権力者が担い、それぞれが支配権と影響力の拡大を求めて画策する動きが起きる。
ロシア軍とワグネルの対立は、ナチスドイツの国防軍とSA(突撃隊)の反目になぞらえることができる。突撃隊はナチスの準軍事組織で、1920~30年代にかけて治安維持部隊として活躍し、アドルフ・ヒトラーの政権獲得に大いに貢献した。34年の全盛時には隊員数が300万を超え、隊長のエルンスト・レームは国防軍に取って代わることさえ考えていた。これに脅威を感じた軍部はヒトラーを動かし、レームを粛清させた。
だがワグネルの体質には、過去の傭兵部隊や正規軍と大きく異なる点がある。昔の軍隊も、いざ戦場に出れば残虐行為をいとわなかったが、できることなら実戦を回避したいと考えていた。傭兵であれ正規軍であれ、本格的な徴兵制が導入される以前の段階では兵員の確保が大きな問題で、限りある兵士を簡単に死なせるわけにはいかなかった。
今のロシア政府も、国民の反感を買わずに十分な兵力を確保するのは難しい。ウクライナ戦でワグネルに頼らざるを得ないのも、正規兵の犠牲を増やしたくないからだ。強制的な動員も、もっぱら国内の少数民族を対象に行ってきた。
自軍の無駄死にもお構いなし
しかし、こうした動員の試みは往々にして強引かつ突発的で、政府はその多くを中断ないし撤回している。ワグネルが受刑者の採用を打ち切ったのも、ロシア国防省の反発が一因とみられている。
しかしワグネルの戦術には、自軍の犠牲を最小限に抑えるという意図が見えない。16~17世紀の傭兵部隊は人手の確保が非常に困難だったため、可能な限り戦闘を避けようとしていたが、それとは対照的だ。