極右に「2つのプレゼント」をした、マクロンの賭け
France Is Erupting
Yves Herman-REUTERS
<議会の採決を経ずに首相が強行採択できるという「奥の手」で年金改革法を通したことに国民は猛反発。それでも強行した背景とは?>
フランスの大統領には、長いこと任期制限がなかった。連続2期までという制限ができたのは2008年のこと。
ただ、その後のニコラ・サルコジ大統領とフランソワ・オランド大統領は1期(5年)で退陣したから、この任期制限がかかるのは、22年4月に再選を果たした現職のエマニュエル・マクロン大統領が初めてだ。
アメリカなどでは、任期末期に近づいた大統領は政治的影響力が衰えて、レームダック(死に体)などと揶揄されることがあるが、マクロンの任期は27年まである。それに、もう再選を目指す必要がないから、一般に不人気な政策を断行する意欲も大きくなる。
年金の受給開始年齢を62歳から64歳に引き上げることなどを柱とする年金改革法の実現は、まさにそれに当たる。
マクロンが設立した政党「再生」(旧称・共和国前進)などの連立与党は、国民議会(下院)での議席数が過半数を下回っており、かねてから難しい議会運営を強いられてきた。国民の約75%が反対している年金改革法案に支持を取り付けるのは、当然ながら至難の業だ。
左派政党は明確に協力を拒み、極右政党「国民連合」を率いるマリーヌ・ルペンは、4年後の大統領選に勝利したら、この改革を撤回すると断言した。
昨年の総選挙で年金制度改革を唱えていた右派の共和党も、支持を拒否した。通常の採決では可決できそうにないと判断したマクロンは、エリザベット・ボルヌ首相に年金改革法案の強行採択を指示した。
フランス憲法49条3項によると、社会保障関連の法案は、議会の採決を経ずとも首相が強行採択できることになっている。
年金制度は崩壊寸前だが
こうして3月16日に年金改革法は成立したが、これで一件落着とはいきそうにない。フランス全土で労働組合が激しい抗議行動を展開している。
石油精製業者やゴミ収集業者のストライキにより、ガソリンスタンドに1時間待ちの行列ができ、パリの街角に大量のゴミ袋が放置されている。