最新記事
補助犬

知られざる「補助犬用トイレ」の現状──パートナーと一心同体の補助犬も外出先で排泄の場を必要としている

2023年3月31日(金)14時30分
内村コースケ(フォトジャーナリスト)

室内型専用トイレの使い勝手は?

A1_03348.jpg

JRさいたま新都心駅の補助犬用トイレ(左のガラスのドア)。中央と右のドアは多機能トイレ

実際にこの目で国内の事例を見ておこうと、先日、知人のアイメイト使用者と一緒にJRさいたま新都心駅構内の補助犬用トイレを訪ねた。東京五輪よりも早く、2019年に設置された先駆的施設。改札内のコンコースの一角に、2つの多機能トイレと併設されている。ボタン式の自動ドアを開けて中に入ると、多機能トイレのような広い床面があり、正面の壁沿いに汚物流し台と手洗い場があった。犬の排泄スペースは、一段高くなった2mx0.5m程度のステンレス製の台。中央に排水溝があり、水を流せるシャワーがついている。ここに犬を乗せて排便させ、尿は係員が定期的にシャワーで流し、便は使用者が拾って汚物流し台にその場で流すスタイルだ。

ただ、アイメイト(盲導犬)の場合は前述のように、使用者の周囲を何周か回らせて排便を促す。この一段高くなった狭い排便台ではそれができない。車椅子ユーザーでもある介助犬使用者の利便性を考えて流し台形式にしたようだが、盲導犬使用者のほとんどはここを使わずに床面にペットシーツを敷いて利用しているとのこと。つまり、その場合使い勝手は多機能トイレとあまり変わらない。

同行したアイメイト使用者は、ふだんは郊外の一軒家の裏庭でさせており、ペットシーツでの排泄の訓練はほとんどしていない。試しに排泄台の上に乗せてみたが、「ワン・ツー」の指示を出しても怪訝そうに中央に座り込んでしまうばかり。床におろしてペットシーツを敷いて周囲を回らせてみても、結果は同じだった。15分ほどチャレンジしたが、"屋外派"のこのアイメイトはついに排泄しなかった。

もちろん、使えるか使えないかは犬によって異なり、逆にここで気持ちよく排泄できる補助犬もいるだろう。JR東日本大宮支社によれば、さいたま新都心駅の補助犬用トイレの利用率は、駅員の印象では「月に1、2回程度」。ステンレス製の排泄台については、利用者からの「滑りやすく使いにくい」という指摘を受け、人工芝を敷く対応をしたとのことだ。

A1_03294.jpg

さいたま新都心駅の補助犬用トイレの排泄台。このアイメイトは普段の排泄行動が取れず、座り込んでしまった


A1_03318.jpg

床面にペットシーツを敷いて再チャレンジ

「違い」を認められる寛容さを

A1_05938-2.jpg

こうした補助犬用トイレの仕様の問題は今後も議論を重ねてブラッシュアップしていくべきだ。ただ、それ以前の問題として、「日本社会には補助犬に対する寛容さがまだまだ足りない」と、殿岡さんたちは公開研究会で訴えた。

朴さんは、海外の寛容さの一例として、オーストラリアでの経験を披露。盲導犬が道路脇の植え込みで排泄すると、通りがかかりの愛犬家が「私が拾っておきますよ」と申し出てくることがあったという。殿岡さんは「日本では、犬どころか子供ですら、公共の場で吐いてしまったりおもらしをしてしまったら、お母さんたちがとても恐縮して周りに頭を下げ回りながら自分で雑巾を持ってきて拭き取ったりします。訓練された盲導犬でも100%失敗しないわけではなく、緊張や体調不良もあります。そうしたことを受け止められる優しさ、おおらかな部分があったらもっと過ごしやすいと思います。それは、施設を整備して解決するものではありません」と、当事者としての感想を述べた。

補助犬用トイレの議論と整備はまだ始まったばかり。当事者や専門家でなくても、まずできることは、自分と異なる存在や価値観を受け入れ、尊重できる寛容さを持って社会に接することではないだろうか。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

日銀には、政府と密接に連携し賃金上昇伴う2%目標の

ワールド

IMF、中国に構造改革の加速要請 成長予測引き上げ

ワールド

仏中銀、成長率予想を小幅上方修正へ 政情不安でも経

ワールド

中国海警局、尖閣周辺で哨戒と発表 海保は領海からの
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 2
    【クイズ】アジアで唯一...「世界の観光都市ランキング」でトップ5に入ったのはどこ?
  • 3
    トランプの面目丸つぶれ...タイ・カンボジアで戦線拡大、そもそもの「停戦合意」の効果にも疑問符
  • 4
    中国の著名エコノミストが警告、過度の景気刺激が「…
  • 5
    死者は900人超、被災者は数百万人...アジア各地を襲…
  • 6
    「韓国のアマゾン」クーパン、国民の6割相当の大規模情…
  • 7
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 8
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 9
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的、と元イタリア…
  • 10
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 6
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 7
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 8
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 9
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 10
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 9
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中