最新記事
ジョージア

デモ隊に放水銃の攻撃、ジョージア「ロシアそっくり法案」はなぜ今だったのか

Georgians Lean West

2023年3月13日(月)19時30分
エイミー・マッキノン(フォーリン・ポリシー誌記者)
ジョージア、デモ隊

放水をかわすデモ参加者(首都トビリシで) IRAKLI GEDENIDZE-REUTERS

<NGO弾圧法案が議会に提出され、市民が大規模デモで抗議。法案は取り下げられたが、国民の大多数がEU・NATO加盟を求めるこの国で、民主主義の空洞化が進んでいる>

放水銃で攻撃され、よろけながらもEU旗を振り続ける若い女性。彼女が転ばないよう支えたり、彼女をかばって放水を受ける仲間たち(※記事末の動画参照)。

それは3月7日と8日、ジョージアの首都トビリシで起きた警察隊と数千人のデモ参加者の衝突を象徴する光景だった。

焦点になっていたのは、活動資金の20%以上を外国から得ている団体を「外国の代理人」として登録することを義務付ける法案だ。

10年前にロシアでそっくりの法律が導入され、NGOや独立系メディアの弾圧に使われた。それが7日、ジョージア議会でも審議が進んだ(編集部注:その後9日に取り下げられた)。

かつてソ連の一部だったジョージアは、ロシアと国境を接しながらも、一時は強力な親欧米路線を取っていた。ところが近年の政治には、ロシアの影がちらつく。

それでも国民の大多数はEU・NATO加盟を希望している。最近の世論調査では、EU加盟支持が75%、NATO加盟支持が69%に達した。

それだけに一般市民の間では、ロシアに対する警戒感が強い。2012年にロシアで外国代理人法が施行されたときは、多くの市民団体が活動休止に追い込まれた。

2021年には、ロシアの人権団体メモリアルが最高裁から解散命令を受けた(メモリアルは2022年にノーベル平和賞を受賞)。

230321_28p46_JOA_01.jpg

市民の前に立ちふさがる警察隊(首都トビリシで) IRAKLI GEDENIDZE-REUTERS

ジョージアでも同じことが起こるのではという危機感が、トビリシでの大規模デモにつながった。

「(外国代理人法を)葬り去るために、社会全体が結束した。皆ロシアで起きたことを知っているからだ」と、トランスペアレンシー・インターナショナル(TI)ジョージアのエグゼクティブディレクターを務めるエカ・ギガウリは語る。

「ウクライナでは戦争が起きているが、ジョージアでもロシア的統治との戦いが起きている」

ちらつくロシアの影

近年、ジョージアの民主主義は、空洞化が目立つようになった。国家権力の抑制と均衡が乏しくなり、与党「ジョージアの夢」が異例の存在感を示すようになった。

その設立者である大富豪ビジナ・イワニシビリは現在、公職には就いていないが、舞台裏から政府に大きな影響を及ぼしていると広くみられている。

そんななかで外国代理人法が採択されれば、ジョージアの民主主義は大きく後退していただろう。当局は、市民団体や独立系メディアに嫌がらせをしたり、ひょっとすると黙らせたりする強力な権限を手にすることになるからだ。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

仏で緊縮財政抗議で大規模スト、80万人参加か 学校

ワールド

中国国防相、「弱肉強食」による分断回避へ世界的な結

ワールド

アングル:9月株安の経験則に変調、短期筋に買い余力

ビジネス

ロシュ、米バイオ企業を最大35億ドルで買収へ 肝臓
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、日本では定番商品「天国のようなアレ」を販売へ
  • 2
    燃え上がる「ロシア最大級の製油所」...ウクライナ軍、夜間に大規模ドローン攻撃 国境から約1300キロ
  • 3
    中国は「アメリカなしでも繁栄できる」と豪語するが...最新経済統計が示す、中国の「虚勢」の実態
  • 4
    1年で1000万人が死亡の可能性...迫る「スーパーバグ…
  • 5
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 6
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 7
    【クイズ】世界で最も「リラックスできる都市」が発…
  • 8
    中国山東省の住民が、「軍のミサイルが謎の物体を撃…
  • 9
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 10
    中国経済をむしばむ「内巻」現象とは?
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 3
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサイルが命中、米政府「機密扱い」の衝撃映像が公開に
  • 4
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 5
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 6
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 7
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    「なんて無駄」「空飛ぶ宮殿...」パリス・ヒルトン、…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 10
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中