最新記事
ジョージア

もう一つの隣国ジョージアで「ロシア化反対」の大規模デモ

Protests ignite in another of Russia's neighbors

2023年3月9日(木)19時49分
デービッド・ブレナン

ジョージアの民主派は、この法案が通れば、EU-NATOとより密接な関係を築くことは困難になると警戒している。ジョージアは、ロシアがウクライナ侵攻を開始した直後の昨年3月、EUに加盟を申請した。NATOとも長年協力関係にあり、NATO加盟にも前向きだが、ロシアを挑発する恐れがあるため、今のところ申請には至っていない。

ウクライナやモルドバと同様、ジョージアもロシアとの領土問題を抱えている。ジョージアの領土の約20%を占める南オセチアとアブハジアは、2008年にロシアが分離独立の動きにテコ入れするため本格的な軍事介入に踏み切って以来、ロシア軍の占領下に置かれている。

トビリシの大規模デモは、2014年にウクライナの「マイダン革命」につながったデモに驚くほど似ている。この革命では、西側との関係強化に自国の未来を託す人々が、親ロ派のビクトル・ヤヌコビッチ大統領の政権を転覆。これがロシアのウラジーミル・プーチン大統領の逆鱗に触れ、ロシアのクリミア侵攻、されにはウクライナ侵攻につながったとみられている。

トビリシでのデモの直前には、モルドバの首都キシナウも緊迫ムードに包まれた。ウクライナ西部との国境地帯に横たわるモルドバ東部の親ロ派地域・沿ドニエストル地域には約1500人のロシア兵が駐留している。EUに加盟申請をしているモルドバ政府は、プーチンが武力で自分たちを失脚させ、傀儡政権を打ち立てる計画を練っているとの情報を入手し、ロシアに駐留部隊の撤退を求めた。

EUは7日、ジョージア議会で審議中の問題の法案について、「EUの価値観と基準とは相容れない」可能性があり、ジョージアとEUの関係に「深刻な影響」を及ぼしかねないと警告を発した。

世論は西側接近を支持

米国務省のネッド・プライス報道官は、米政府は「ジョージアにおける事態の展開を注視して」いると述べ、「民主主義陣営との連携を強化し、欧州-大西洋地域の一員となり、より輝かしい未来を目指すジョージアの人々の重要な権利の一部を奪う恐れがある」として、問題の法案に「深い懸念」を表明した。

「この法案は極めて重大な後退であると、われわれは見ている」と、プライスは述べた。「ジョージアの人々の熱意に逆行する動きだ。アメリカはジョージアの人々のパートナーであり続けようとしているが、この法案が通れば、それも不可能になる」

世論調査によれば、ジョージアでは西側との関係強化を支持する声が大多数を占める。昨年8月に実施された調査では、「西側寄り」の外交政策を支持する人は47%、「西側に接近しつつ、ロシアとも良好な関係を保つ」二股外交を支持する人は31%で、「ロシア寄り」に賛同する人は2%にすぎなかった。また、自国のEU加盟申請を支持する人は75%に上った。

だが政界のエリート層にとっては、問題はもっと複雑だ。彼らは1991年のジョージア独立以降も、政治的にも財政的にもロシア政府との強力なつながりを維持してきた。たとえば元首相で与党「ジョージアの夢」の創設者である実業家のビジナ・イワニシビリは、今も政界に大きな影響力を持っているとされている。

イワニシビリは、ソ連崩壊後のロシアで国有財産を売却して財を成した人物で、親欧米のミハイル・サーカシビリ元大統領とは対照的に、長年ロシアとの関係の正常化を模索してきた。サーカシビリは現在、職権乱用の罪で収監されているが、本人は自身に下された有罪判決について、政治的動機に基づくものだと主張している。

ジョージアは「親欧米から親ロシアへ」

ジョージアに拠点を置くシンクタンク「経済政策研究センター」の非常勤研究員であるショタ・グビネリアは、3月8日に米シンクタンク「アトランティック・カウンシル」が開催したウェビナーの中で、ジョージア政府は「親欧米のふりをしてきたが、見かけと実際の政策の間には大きな隔たりがあり、公然と親ロシア、反欧米の政策を取るようになってきている」と述べた。

「そのことがはっきりしたのが、ロシアによるウクライナ侵攻だった」、ジョージア政府はウクライナを支持しなかった、とグビネリアは言う。「彼らが言っていること、やっていることは全て、ジョージア政府がロシアに同調していること、彼らには欧米の仲間になるつもりなどないことを示している」

ニューズウィーク日本版 世界が尊敬する日本の小説36
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年9月16日/23日号(9月9日発売)は「世界が尊敬する日本の小説36」特集。優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米国民、「大統領と王の違い」理解する必要=最高裁リ

ワールド

ロシアの26年予算案は「戦時予算」、社会保障費の確

ビジネス

米8月小売売上高0.6%増、3カ月連続増で予想上回

ワールド

トランプ氏、豪首相と来週会談の可能性 AUKUS巡
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェイン・ジョンソンの、あまりの「激やせぶり」にネット騒然
  • 2
    ケージを掃除中の飼い主にジャーマンシェパードがまさかの「お仕置き」!
  • 3
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる」飲み物はどれ?
  • 4
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、…
  • 5
    腹斜筋が「発火する」自重トレーニングとは?...硬く…
  • 6
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 7
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 8
    「なにこれ...」数カ月ぶりに帰宅した女性、本棚に出…
  • 9
    「この歩き方はおかしい?」幼い娘の様子に違和感...…
  • 10
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 4
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 5
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 6
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 7
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    埼玉県川口市で取材した『おどろきの「クルド人問題…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 10
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中