最新記事

ウクライナ戦争

プーチンのおかげで誰もが気付いた、「核兵器はあったほうがいい」

DEATH BLOW TO NPT REGIME

2023年3月1日(水)18時50分
アンドレアス・ウムランド、ヒューゴ・フォンエッセン(いずれもスウェーデン国際問題研究所研究員)

こんなことが許されるなら、NPT公認の5核保有国(いずれも通常兵器のパワーでも世界の五指に入る大国だ)は好き勝手に、大した犠牲も払わずに自国の領土を拡大できることになる。

一方で国際法の効力を無邪気に信じ、「非核保有国」としてNPTに参加した諸国には何の対抗手段もない。

核は素敵なソリューション

2014年に始まったロシアのウクライナ攻撃は、じわじわとNPT体制を骨抜きにし、その結果としてロシア自身を含む加盟191カ国の安全を脅かしている。

これほど露骨に国際的な約束を破られたら、誰も約束など信じなくなる。核なき世界を目指そうという意欲はそがれ、逆に核兵器の取得や使用に意欲を燃やす国やテロ組織が増える。こうして、あらゆる国の安全が脅かされていく。

繰り返すが、ロシアによる今回のウクライナ侵攻を見れば核武装を目指す国は増える。それはなぜか。

そもそも、ロシアがウクライナを攻撃できたのは自国に核兵器があるからだ。一方でウクライナには侵略を抑止できる核戦力がなく、NPTによってその入手を禁じられている。もしもウクライナに核兵器があれば、プーチンもロシア軍の指導者たちも、あの国へ戦車を送り出すのをためらったはずだ。

NATOのような多国間安保同盟に加わっていない中小国は、今回の事態で次のような3つの教訓を学んだはずだ。

その1、核兵器はあったほうがいい(他国の領土を奪うにもいいし、他国に領土を奪われるのを防ぐにもいい)。

その2、核兵器を手放すのはよくない。

その3、条約だの覚書だのを信じてはいけない。たとえ世界中の国が批准し、法的拘束力を持ち、全ての大国が支持していても、そんなものは無意味だ。

そして誰もが、核弾頭や濃縮ウランを手放したウクライナ政府の愚を繰り返すまいと思ったはずだ。運よく核弾頭があれば絶対に手放さず、なければ何としても手に入れる。主権と領土を守るにはそれが一番だと、思ったに違いない。

今はまだ、ゼロから核兵器の開発を進めるのは難しい。だが何らかの技術革新があれば、あるいは誰かから買える可能性があれば、誰だって核武装を目指したくなる。隣に乱暴な国があり、そこに核兵器があり、あるいはその存在が疑われる場合はなおさらだろう。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

金総書記、プーチン氏に新年メッセージ 朝ロ同盟を称

ワールド

タイとカンボジアが停戦で合意、72時間 紛争再燃に

ワールド

アングル:求人詐欺で戦場へ、ロシアの戦争に駆り出さ

ワールド

ロシアがキーウを大規模攻撃=ウクライナ当局
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 2
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指すのは、真田広之とは「別の道」【独占インタビュー】
  • 3
    【世界を変える「透視」技術】数学の天才が開発...癌や電池の検査、石油探索、セキュリティゲートなど応用範囲は広大
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 6
    中国、米艦攻撃ミサイル能力を強化 米本土と日本が…
  • 7
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 8
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 9
    【クイズ】世界で最も1人当たりの「ワイン消費量」が…
  • 10
    「衣装がしょぼすぎ...」ノーラン監督・最新作の予告…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指すのは、真田広之とは「別の道」【独占インタビュー】
  • 4
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 5
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 6
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 7
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 8
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 9
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 10
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中