最新記事

ウクライナ戦争

プーチンのおかげで誰もが気付いた、「核兵器はあったほうがいい」

DEATH BLOW TO NPT REGIME

2023年3月1日(水)18時50分
アンドレアス・ウムランド、ヒューゴ・フォンエッセン(いずれもスウェーデン国際問題研究所研究員)

230307p22_KAK_02.jpg

「ブダペスト覚書」に署名する(左から)ロシアのエリツィン大統領、クリントン米大統領、ウクライナのクチマ大統領、メージャー英首相(1994年、いずれも肩書は当時) AP/AFLO

残る2つのNPT公認核保有国(フランスと中国)も追随した。どの国も、それぞれの政府声明でウクライナの国家主権と国境を尊重すると明言した。

ウクライナと同様に旧ソ連の核兵器を継承していたベラルーシとカザフスタンにも同様な約束がなされ、この両国も核兵器をそっくりロシアに返還した。

NPT(いかなる軍縮協定よりも多い191の国と地域が参加している)は1968年に交渉が妥結し、1970年に発効した。その目的は核兵器の拡散を防ぎ、原子力の平和利用に関する国際協力を進め、核兵器の廃絶に向けて努力することにある。

そしてウクライナとベラルーシ、カザフスタンの非核化に成功したこともあり、NPTは1995年に無期限で延長されて今日に至っている。

NPTは核兵器が世界中に拡散するのを防いできた。核廃絶の目標に向けた核保有国による努力を義務付けた拘束力のある条約はほかにない。核兵器の拡散防止は一国の努力だけで実現できるものではなく、国際社会の真摯な努力と協調が不可欠だとも明示している。

またNPTの下では、核保有国には核兵器を他国に供与しない義務があり、非核保有国には核兵器を受領し、製造し、または取得しない義務がある。さらに、全ての締約国が民生用の原子力利用を推進できるよう、核保有国が支援するという約束も含まれている。

そして条約の前文では、国連憲章の精神に鑑み、いかなる国も「他国の政治的独立と領土の一体性を損なうような武力の行使またはその脅迫」をしてはならないと念を押している。

実際、ロシアによるウクライナ侵攻が始まる2022年2月24日まで、NPT体制はそれなりに機能してきたと言えるだろう。現に地球上の大多数の国は、今も核兵器を保有していない。NPTを拒否して独自に核兵器を開発し、保持しているのはインドとパキスタン、イスラエル、そして北朝鮮だけだ。

ただし、これらの国の持つ核弾頭数はNPT公認の5つの核保有国(国連安保理の常任理事国でもあるアメリカ、イギリス、中国、フランス、そしてロシア)に比べてずっと少ない。つまり発効から半世紀以上たった今も、核兵器の拡散はNPTの下で、おおむね防がれている。

しかしロシアは2014年にウクライナへの軍事的・非軍事的攻撃を仕掛け、ウクライナ領の一部を強奪・併合し、昨年2月からは本格的な軍事侵攻を開始した。これでNPTのロジックは根底から覆された。5つの公認核保有国はウクライナの主権と領土の安全を保障していたが、そんな約束は何の役にも立たないことが明らかになった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米税関当局、関税還付巡り「4段階方式」で進める仕組

ビジネス

アドビのCEO退任へ、AI戦略懸念で株価下落

ワールド

トランプ氏「原油高は米の利益」、イラン核保有阻止が

ワールド

米上院、手頃な価格住宅法案を可決 下院で審議へ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのミュージカル入門
特集:教養としてのミュージカル入門
2026年3月17日号(3/10発売)

社会と時代を鮮烈に描き出すミュージカル。意外にポリティカルなエンタメの「魔力」を学ぶ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」と言われる外国特派員の私が思うこと
  • 2
    職業別の収入に大変動......タクシー運転手・自動車整備は収入増、公認会計士・税理士は収入減
  • 3
    「このままよりはマシだ」――なぜイランで米軍の攻撃に支持が広がるのか
  • 4
    世界の視線は中東から日本へ...企業主導で築くインド…
  • 5
    「イラン送りにすべき...」トランプ孫娘、警護隊引き…
  • 6
    「映画賞の世界は、はっきり言って地獄だ」――ショー…
  • 7
    2万歩でも疲れない? ディズニー・ユニバで足が痛く…
  • 8
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製…
  • 9
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...…
  • 10
    イランがドバイ国際空港にドローン攻撃...爆発の瞬間…
  • 1
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 2
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...撮影はパパ
  • 3
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」と言われる外国特派員の私が思うこと
  • 4
    「このままよりはマシだ」――なぜイランで米軍の攻撃…
  • 5
    キャサリン皇太子妃、英連邦デー式典に出席...公開さ…
  • 6
    【長期戦はイラン有利】米側の体制転覆シナリオに暗…
  • 7
    職業別の収入に大変動......タクシー運転手・自動車…
  • 8
    日本の保護者は自分と同じ「大卒」の教員に敬意を示…
  • 9
    中国はイランを見捨てた? イランの「同盟国」だっ…
  • 10
    中国、4隻目の空母は原子力艦か──世界3番目の原子力…
  • 1
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 2
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 3
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 4
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...…
  • 5
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 6
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医…
  • 7
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 8
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 9
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビ…
  • 10
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中