最新記事

北欧

ウクライナ戦争で状況一変、ドイツさえ手玉に取る「再エネ先進国」ノルウェーの野心

A Renewable Energy Superpower

2023年2月8日(水)17時24分
ブレット・シンプソン

230214p36_NWY_02.jpg

ノルウェーとポーランドを結ぶ天然ガスパイプラインの圧縮施設 JP BLACKーLIGHTROCKET/GETTY IMAGES

余った再生可能エネルギーは輸出に振り向ければいい。例えばドイツは、国土の面積はノルウェーと大差ないが人口は15倍以上。現実問題として、エネルギーの自給自足は不可能に近い。

水素は燃焼後に水しか出さないクリーンな燃料だから、ドイツの重工業を脱炭素化するには必須とされる。そもそもEU自体が、2050年までには世界のエネルギー需要の24%を水素で賄えるという見通しを示している。

だが、問題はどんな水素燃料なら真にクリーンと言えるかだ。定義上、真に「排出ゼロ」と言えるのは再生可能電力で生産された「緑の水素」だけだ。対して「青い水素」は天然ガスを燃やして生産されるので、その過程で排出される二酸化炭素を回収・貯留する必要が生じる。

ちなみに、ドイツで緑の党を率いるハベックは原則として「青い水素」を否定する立場だ。昨年1月には、「青い水素」を用いる事業にはドイツ政府の水素発電補助金を支給しないと表明している。

だが現実は厳しい。ノルウェーからパイプラインで運ばれてくる年間400万トンの水素も、少なくとも最初のうちは「青い水素」だ。その後は段階的に「緑の水素」に転換することになっているが、その時期は明示されていない。

つまり、ハベックは厳しい現実を前に妥協を強いられた。ドイツ国際安全保障問題研究所のフェリクス・シェヌイットに言わせれば、ノルウェーは「緑の大臣に青い水素を認めさせた」のだ。

この1月の2国間協定で、ドイツ側は水素社会への移行に必要なインフラ整備の約束もした。既に水素パイプラインの第1区間工事がザクセン州で始まっている。

これ以外に、洋上風力発電や蓄電技術の開発、ドイツで回収した二酸化炭素をノルウェーの大陸棚に運んで埋めるためのパイプライン建設など、広範な協定も結ばれた。うまくいけば、ドイツはEU全域における脱炭素社会への移行で主導権を握れる。

しかし、ノルウェー側にも厄介な障害がある。国民の意識だ。現時点でストーレ政権の支持率は低い。真冬なのに電気代が急騰しているからだ。原因はウクライナでの戦争にあるのだが、国民は納得しない。何十年も高い税金を払ってきたのに、まだエネルギーの自立はできないのかという不満がある。

ノルウェー人はこう思っている、と同国の国際気候・環境研究センターのボード・ラーンは言う。石油は売って稼ぐためにあり、再エネは自分たちが使うためにあると。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イスラエルがイラン再攻撃計画か、トランプ氏に説明へ

ワールド

プーチン氏のウクライナ占領目標は不変、米情報機関が

ビジネス

マスク氏資産、初の7000億ドル超え 巨額報酬認め

ワールド

米、3カ国高官会談を提案 ゼレンスキー氏「成果あれ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 2
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦い」...ドラマ化に漕ぎ着けるための「2つの秘策」とは?
  • 3
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリーズが直面した「思いがけない批判」とは?
  • 4
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 5
    「何度でも見ちゃう...」ビリー・アイリッシュ、自身…
  • 6
    70%の大学生が「孤独」、問題は高齢者より深刻...物…
  • 7
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 8
    中国最強空母「福建」の台湾海峡通過は、第一列島線…
  • 9
    ロシア、北朝鮮兵への報酬「不払い」疑惑...金正恩が…
  • 10
    週に一度のブリッジで腰痛を回避できる...椎間板を蘇…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 5
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 6
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 9
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 10
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 8
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中