最新記事

天体観測

【解説】2月2日に最接近し「肉眼で見える」──二度と戻って来ない「緑のZTF彗星」の正体

A COSMIC GIFT OF GREAT PRICE

2023年2月1日(水)13時10分
フレッド・グタール(本誌サイエンス担当)
彗星

(写真はイメージです)アラブ首長国連邦の砂漠上空に現れた彗星 ANTON PETRUSーMOMENT/GETTY IMAGES

<ネアンデルタール人も見ていたはずの「長周期彗星ZTF」が約5万年ぶりに地球に接近している>

夜空に浮かぶおおぐま座とこぐま座の間に新たな彗星が現れた──といっても、特に派手な天空ショーではない。緑色の小さな影にしか見えないだろう。天空の3分の2まで伸びる尾を引いていた1910年のハレー彗星とは大違いだ。2月初めに明るさがピークに達した後、1~2週間で見えなくなる予想だから、実に15カ月以上も輝き続けた1997年のヘール・ボップ彗星とも比べものにならない。

【動画】「緑のZTF彗星」の現在地

だが、この彗星には他の彗星と異なる重要な点が1つある。それは、ここまで来るのにとんでもなく長い距離を移動してきたことだ。詳細はまだ不明だが、この彗星の公転周期は推定で5万年。ヘール・ボップ彗星は約2500年、ハレー彗星はわずか76年だから、まさに桁違い。計算上、この彗星は太陽系の外縁と星間空間の境目に位置する「オールトの雲」から来たと考えられる。

オールトの雲は、最長で地球から2光年近く(16兆キロ以上)も先の宇宙空間にまで広がる。40億年ほど前、宇宙のガスが凝縮して太陽ができ、惑星が生まれた頃、太陽の重力圏の端っこには原始の物質の小さな破片が散らばっていたと考えられる。

「小さいといっても、そのへんの山くらいの大きさはある。それが私たちの知る彗星の起源だ」と、アリゾナ大学の天文学者エイミー・マインザーは言う。「こうした天体はすごく、ものすごく古い」から、宇宙の起源を知る手掛かりになる。

【写真】「緑のZTF彗星」の美しい光

その古さとは比較にならないが、この彗星が前回、地球上で見えたのは5万年前。まだネアンデルタール人がいた頃だ。彼らも、この緑色の天体には驚いたに違いない。私たちホモサピエンスがこの天体に気付いたのは昨年の3月。見つけたのは米カリフォルニア州パロマー天文台のZTF(ツビッキートランジェント天体探査装置)に詰める人たちだ。

その1人で、カリフォルニア工科大学のフランク・マッシは人工知能(AI)の専門家。デジタル画像を精査し、既知の天体に関するデータベースでは説明できない光源を見つけたら天文学者に知らせるのが仕事だ。しかし、今回の彗星を発見したのはAIソフトではない。ZTFを仕切るトム・プリンスによれば「夜明け前と日没後に空を見るという昔ながらの方法」で見つかった。

ZTFの科学者らは、当初は小惑星だと思っていた。画像の光り方は小惑星を思わせた。小惑星の場合、太陽に照り付けられて氷やガスなどの揮発性物質が燃え尽き、硬い岩石の表面だけが残っているから、太陽の光をしっかり反射する。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

再送-米、ロ産石油輸入巡り対中関税課さず 欧州の行

ワールド

米中、TikTok巡り枠組み合意 首脳が19日の電

ワールド

イスラエルのガザ市攻撃「居住できなくする目的」、国

ワールド

米英、100億ドル超の経済協定発表へ トランプ氏訪
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェイン・ジョンソンの、あまりの「激やせぶり」にネット騒然
  • 3
    腹斜筋が「発火する」自重トレーニングとは?...硬く締まった体幹は「横」で決まる【レッグレイズ編】
  • 4
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 5
    ケージを掃除中の飼い主にジャーマンシェパードがま…
  • 6
    電車内で「ウクライナ難民の女性」が襲われた驚愕シ…
  • 7
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 10
    「この歩き方はおかしい?」幼い娘の様子に違和感...…
  • 1
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 2
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 3
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 4
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 5
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 6
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 7
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    埼玉県川口市で取材した『おどろきの「クルド人問題…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 10
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中