怠けているように見える生活保護受給者は「虐待サバイバー」かもしれない
ましてやそれに輪をかけて、この国の福祉制度が彼らをさらに追い詰めているのだと著者は指摘する。なぜなら行政が行う公的支援は、家族を単位として考えられているからだ。
しかもその家族の前提は、相互に支え合う機能を備えた(虐待が起きない)、いわゆる「普通」の家族。
要するに、虐待を受け、家族の支えや助け合いとはほど遠いところで生きている子どもたちは対象となっていないのだ。
行政の支援というのは一面的である。よく言えば統一した対応がとられているのだが、悪く言えば形式的な対応に終始していて、十分に個々の事情を理解して対応できていると言えるほど機能していない。
公的支援は、多くの人に幅ひろく適用できるように汎用性を持たせている。その反面、専門性は削ぎ落とされてしまっている。
虐待による心の傷が原因で生活保護を受けることになった人には、公的支援だけでは不十分だった。そして、限界があった。(41ページより)
いわれてみれば当然の話で、住居の提供や生活費の支給、就労意欲の促進などをすれば心の傷が回復するというわけではない。だが逆から考えれば、もし回復できれば、彼らは生活保護に頼らず生きていけるかもしれない。
もちろんそれは、それは決して簡単なことではないのだが。
『ルポ 虐待サバイバー』
植原亮太 著
集英社新書
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[筆者]
印南敦史
1962年生まれ。東京都出身。作家、書評家。広告代理店勤務時代にライターとして活動開始。現在は他に「ライフハッカー[日本版]」「東洋経済オンライン」「WEBRONZA」「サライ.jp」「WANI BOOKOUT」などで連載を持つほか、「ダ・ヴィンチ」などにも寄稿。ベストセラーとなった『遅読家のための読書術』(ダイヤモンド社)をはじめ、『世界一やさしい読書習慣定着メソッド』(大和書房)、『読んでも読んでも忘れてしまう人のための読書術』(星海社新書)、『人と会っても疲れない コミュ障のための聴き方・話し方』(日本実業出版社)など著作多数。新刊は、『書評の仕事』(ワニブックス)。2020年6月、日本一ネットにより「書評執筆本数日本一」に認定された。