【解説】最新の研究で解明進む、ネアンデルタール人の新事実──そして我々のこと

WHAT MAKES US HUMAN

2023年1月19日(木)13時00分
アダム・ピョーレ(ジャーナリスト)

230124p42_NDT_08.jpg

DNA解析の結果を基に髪や目の色を再現したネアンデルタール人女性の顔 JOE MCNALLY/GETTY IMAGES

運命を分けたのは社会性?

ネアンデルタール人には象徴的思考の能力があったのではという非常に興味深い仮説は、1990年代にフランス南西部の洞窟の奥深くで、折れた石筍(せきじゅん、洞窟の天井から落ちるしずくに含まれる石灰分が固まったもの)を積み上げて作った半円形の低い壁のような構造物が見つかったことに端を発する。2016年にこの構造物は、約17万6000年前のものだと突き止められた。

構造物のある場所は洞窟の入り口から300メートル以上離れていて、途中には四つんばいにならないと通れない狭い場所がいくつもある。見つかった構造物は6つで、それぞれ約400個の石筍が積み重ねられていた。石筍の大半が部分的に焼け焦げていたことから、構造物の内側では火がたかれていたとみられる。

「この謎めいた構造物はあまりに奇妙。日常生活との関連では説明できない」と、ペティットは言う。「明らかになりつつあるネアンデルタール人の知的好奇心について何かを物語っているに違いない。新しいデータが増えるほど、ネアンデルタール人は認知的にも行動的にも私たちに近いことが分かってくる」

だがグリーンもペーボも、現生人類がネアンデルタール人を圧倒したのは運がよかっただけだという考えには否定的だ。現生人類の先祖たちがアフリカを出て他の地域に広がり、新しいさまざまな技術を開発していったスピードはあまりに速く、先祖たちを大きく有利に導いた何かがあったはずだと言うのだ。

「長い長い年月、歴史のどの時点を取っても、初期のヒト属の数が数十万人を超えることはなかった」と、ペーボは言う。「技術は非常にゆっくりと時間をかけて進歩した。(生息域の)広がり方も他の哺乳類と変わらなかった。対岸に陸地が見えないのにわざわざ海や川を渡ったりはしなかった。そして遅くとも7万年前に現生人類が登場した。状況が変わり始めたのはそこからだ」

約10万年前に初期の現生人類が使っていた技術は、同時期のネアンデルタール人と大差なかった。だが5万~10万年前のいずれかの時点で「文化の発達が急加速」したと、彼は言う。ネアンデルタール人は現生人類と少なくとも1万年は共存したが、間もなく姿を消した。

「西ヨーロッパだろうが中央アジアだろうが、(使われていた)技術はどこのものも非常に似ていた」と、ペーボは言う。「だが現生人類では、技術は非常に急速に変化するようになり、地域ごとの違いが生じるようになった。専門家も道具を見ただけで、南ヨーロッパのものに違いないとか、中東のものだろうと言える」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

マスク氏、「アメリカ党」結成と投稿 中間選挙にらみ

ワールド

米テキサス州洪水の死者32人に、子ども14人犠牲 

ビジネス

アングル:プラダ「炎上」が商機に、インドの伝統的サ

ワールド

イスラエル、カタールに代表団派遣へ ハマスの停戦条
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプvsイラン
特集:トランプvsイラン
2025年7月 8日号(7/ 1発売)

「平和主義者」のはずの大統領がなぜ? 核施設への電撃攻撃で中東と世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 2
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 3
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚人コーチ」が説く、正しい筋肉の鍛え方とは?【スクワット編】
  • 4
    孫正義「最後の賭け」──5000億ドルAI投資に託す復活…
  • 5
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」…
  • 6
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 7
    「詐欺だ」「環境への配慮に欠ける」メーガン妃ブラ…
  • 8
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコ…
  • 9
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 10
    「登頂しない登山」の3つの魅力──この夏、静かな山道…
  • 1
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 2
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 3
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコに1400万人が注目
  • 4
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 5
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 6
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 7
    【クイズ】「宗教を捨てる人」が最も多い宗教はどれ?
  • 8
    普通に頼んだのに...マクドナルドから渡された「とん…
  • 9
    砂浜で見かけても、絶対に触らないで! 覚えておくべ…
  • 10
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 5
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 6
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 9
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 10
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中