【解説】最新の研究で解明進む、ネアンデルタール人の新事実──そして我々のこと
WHAT MAKES US HUMAN
現生人類が優位に立った理由についてペーボは、大きな集団を形成したり考えを効率的に伝え合う能力がネアンデルタール人を上回っていたからだろうと考えている。7万年や10万年前に突然変異によって人類が賢くなったと考えるのには無理があると、彼は言う。一方、現生人類に「(ネアンデルタール人より)大きな社会集団、大きな社会をつくり上げる傾向」があり、「ほんの数万年で」ネアンデルタール人を打ち負かしたというなら理屈が通ると、ペーボは考える。小さな集団での生活は「たぶん初期の人類全てが置かれた状況だった。現生人類に特別な状態はここから始まる。何らかの変化が起きたのだ」と、彼は指摘する。
クレイジーさが勝利の要因
「ネアンデルタール人の一人一人は私たちと同じくらい賢かったのかもしれないと思う」とペーボは言う。「だが私は、現生人類には社会性に関係する特性があり、大きな集団を形成したり互いの世界観に影響を及ぼし合うことを可能にしているという確信がある。それは大きな社会を形成するのに必要な性質で、技術革新の頻度が上がるといった多くの影響をもたらしたかもしれない」
現生人類が優位に立てた理由はほかにもあるだろう。「現生人類には、ほかには例を見ないクレイジーなところがある」と、ペーボは言う。「太平洋に航海に出て、イースター島を見つける前に命を落とす人がたくさんいたなんて、どうかしているとしか言えない。今だって人類は火星に行こうとしている。私たちは探検をやめられない。それが文化なのはもちろんだが、そこには何らかの生物学的基礎があるように思える」
考古学者であるペティットは、現生人類という種全体が優れた「想像世界の探検家」ではないかと考える。グリーンもその考えに同意する。
「われわれ(現生人類)は、ネアンデルタール人とは違った意味で、言語とコミュニケーションの達人だ」と、グリーンは言う。「自分の知識のうち、書き言葉や話し言葉を介して他者から伝えられたものはどのくらいあるかを考えると、われわれは個人としては何も知らないことが分かる。私たちは、先人たちが親切にも書き残してくれたものに依拠している。もしネアンデルタール人がその点において(現生)人類より多少なりとも劣っていたら、われわれが勝利するのは当然だ」
謎の全容解明まで、まだ道は遠い。人類の言語やコミュニケーションをつかさどる遺伝的特徴もいまだ解明されていないと、グリーンは言う。チャギルスカヤ洞窟のような遺伝子データの宝庫がもっと見つかるといいのだが。