【解説】最新の研究で解明進む、ネアンデルタール人の新事実──そして我々のこと

WHAT MAKES US HUMAN

2023年1月19日(木)13時00分
アダム・ピョーレ(ジャーナリスト)

17年には、ペーボと頻繁に共同研究を行っている神経生物学者のグループが、発達中の大脳皮質、特に前頭葉(言語表現、創造性、作業記憶、行動などをつかさどる部位)で活発になる現生人類特有の遺伝子変異を特定した。彼らは昨年、この変異によって幹細胞は大脳新皮質のニューロンをより多く作り出し、私たちの祖先は前頭葉に余分なニューロンを蓄えることができたとする研究結果をサイエンス誌に発表した。

別の論文では、現生人類は他の変異によって、遺伝的欠陥の少ないニューロンを発達させることが可能になり、より多くのニューロンが発達過程で生き残れるようになったことが示唆された。

装飾品を作り、壁画を描いた

グリーンによれば、脳オルガノイドでネアンデルタール人に特有の遺伝子を1カ所だけ、現生人類の脳モデルの遺伝子と置き換えると、脳の形が「おかしくなる」という。この改変が正常な脳の発達に欠かせない重要なプロセスに干渉していることを示唆する発見であり、他の多くの遺伝子にも影響を与えている可能性が高いと、グリーンは指摘する。

干渉を受ける他の遺伝子は具体的にどれか、その結果、現生人類とネアンデルタール人を分けた行動や認知の変化をどのような形で引き起こしたのか――正確な答えが分かるのは、おそらく何年も先だろう。それまでの間、この変化が抽象的思考やその他の特性に関係しているのかどうかも確かめようがない。

トロント大学のビオラ(考古学の専門家であり、遺伝学者ではない)は、現生人類がネアンデルタール人との競争に勝てた理由をめぐる謎を遺伝学で解明できるという見方には懐疑的だ。それどころか、現生人類がネアンデルタール人に勝ったのは遺伝子の相違によるものでは全くない可能性もあると考えている。「DNAは多くのことを教えてくれるが、過去に起きた現実の出来事を説明できるとは思わない」

ネアンデルタール人のようなヒト属の小さな集団は絶滅のリスクが極めて高いと、ビオラは指摘する。自然災害や度重なる悪天候、パンデミックなどの外的要因で簡単に全人口が失われかねないというのだ。

最初にヨーロッパに現れた人類は現代ヨーロッパ人はもちろん、その1万年後のヨーロッパ人とも無関係な集団であり、外的脅威の前になすすべなく絶滅したと、ビオラは言う。

「運の重要性は強調してもしすぎることはないと思う。われわれと遺伝的に同じ現生人類の集団も、多くは移り住んだ地域で全滅した」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

過度な為替変動に警戒、リスク監視が重要=加藤財務相

ワールド

アングル:ベトナムで対中感情が軟化、SNSの影響強

ビジネス

S&P、フランスを「Aプラス」に格下げ 財政再建遅

ワールド

中国により厳格な姿勢を、米財務長官がIMFと世銀に
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本人と参政党
特集:日本人と参政党
2025年10月21日号(10/15発売)

怒れる日本が生んだ「日本人ファースト」と参政党現象。その源泉にルポと神谷代表インタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号返上を表明」も消えない生々しすぎる「罪状」
  • 2
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多い県」はどこ?
  • 3
    ギザギザした「不思議な形の耳」をした男性...「みんなそうじゃないの?」 投稿した写真が話題に
  • 4
    「認知のゆがみ」とは何なのか...あなたはどのタイプ…
  • 5
    大学生が「第3の労働力」に...物価高でバイト率、過…
  • 6
    【クイズ】世界で2番目に「リンゴの生産量」が多い国…
  • 7
    【インタビュー】参政党・神谷代表が「必ず起こる」…
  • 8
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 9
    ニッポン停滞の証か...トヨタの賭ける「未来」が関心…
  • 10
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 1
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 2
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号返上を表明」も消えない生々しすぎる「罪状」
  • 3
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ海で「中国J-16」 vs 「ステルス機」
  • 4
    中国人が便利な「調理済み食品」を嫌うトホホな理由…
  • 5
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 6
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道され…
  • 7
    メーガン妃の動画が「無神経」すぎる...ダイアナ妃を…
  • 8
    時代に逆行するトランプのエネルギー政策が、アメリ…
  • 9
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 10
    日本で外国人から生まれた子どもが過去最多に──人口…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 3
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に...「少々、お控えくださって?」
  • 4
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 5
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 6
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 7
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 8
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 9
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
  • 10
    数千円で買った中古PCが「宝箱」だった...起動して分…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中