【解説】最新の研究で解明進む、ネアンデルタール人の新事実──そして我々のこと

WHAT MAKES US HUMAN

2023年1月19日(木)13時00分
アダム・ピョーレ(ジャーナリスト)

230124p42_NDT_04B.jpg

フランス・ラシャペルオーサンの復元された墓穴 DEA/A. DAGLI ORTIーDE AGOSTINI/GETTY IMAGES

ネアンデルタール人は火を使った加熱処理によって合成材料を作り、道具や武器を改良していたことも分かってきた。ウラッグサイクスによると、炉跡の堆積物を分析したところ、ネアンデルタール人が原始的な接着剤バーチタールを作っていたことが分かったという。これは北米の先住民がよく使っていた接着剤で、道具に持ち手を付けるのに使われた可能性が高いという。

「この接着剤を作るためには、カバの木(の樹皮)を加熱処理しなければならない。そのためには火加減を慎重に調整する必要がある」と、ウラッグサイクスは語る。

脳の体積はほぼ同じだが

こうしたことは全て、ネアンデルタール人に高度な知性があった証拠だ。では、ネアンデルタール人と現生人類の違いは何なのか。

具体的な結論を出すのは時期尚早だが、新たな発見は有力な手がかりを与えてくれる。

化石を見る限り、ネアンデルタール人の脳はかなり発達していた。現生人類の脳は、チンパンジーの脳の3~4倍の大きさだが、ヒト属の脳が最初からそんなに大きかったわけではない。急激に拡大し始めたのは約200万年前で、60万年前に現在と同等の大きさになった。現生人類がネアンデルタール人から分岐したのは、その20万年後のことだ。ネアンデルタール人の脳の形(楕円体)は、現生人類の脳(ほぼ球体)とは異なるが、体積はほぼ同じだ。

グリーンやペーボらの研究者は分子生物学の手法も活用している。ペーボはヒトゲノムの遺伝情報と遺伝子の各領域の機能に関する知見を参考にして、ネアンデルタール人と現生人類の遺伝子の差異のうち機能の違いをもたらした可能性が最も高そうな3万点のリストを作成した。グリーンも独自のリストを作っている。

遺伝情報の差異の多くは「特に神経組織で発現する遺伝子に集中している傾向がある」と、グリーンは言う。「われわれの神経の発達と、おそらく認知機能がネアンデルタール人と異なることを示唆するものだ」

この相違の理由を突き止めるため、ペーボやグリーンを含む多くの研究者は最先端のテクノロジーを駆使して、DNAと幹細胞からニューロン(神経細胞)の集合体「脳オルガノイド」を実験室で培養している。さまざまな細胞に変化する幹細胞の特性を利用した脳の3Dモデルだ。さらに遺伝子編集技術クリスパー・キャスナイン(CRISPR-Cas9)を用いて、培養した現生人類の脳モデルをネアンデルタール人の脳に近づけ、その「加工」が脳細胞の発達にどう影響するかを観察する。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

小泉防衛相、中国軍のレーダー照射を説明 豪国防相「

ワールド

米安保戦略、ロシアを「直接的な脅威」とせず クレム

ワールド

中国海軍、日本の主張は「事実と矛盾」 レーダー照射

ワールド

豪国防相と東シナ海や南シナ海について深刻な懸念共有
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 2
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 3
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」が追いつかなくなっている状態とは?
  • 4
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 5
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 6
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 7
    『ブレイキング・バッド』のスピンオフ映画『エルカ…
  • 8
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 9
    仕事が捗る「充電の選び方」──Anker Primeの充電器、…
  • 10
    ビジネスの成功だけでなく、他者への支援を...パート…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺るがす「ブラックウィドウ」とは?
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 6
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 7
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 8
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 9
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 10
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 10
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中