【解説】最新の研究で解明進む、ネアンデルタール人の新事実──そして我々のこと
WHAT MAKES US HUMAN
例えば、多くのネアンデルタール人は右利きだった可能性が高く、極度にたくましい二の腕を持っていたようだ。利き腕の筋肉は反対の腕よりも25~60%大きく発達しており、狩猟中に強烈な力で木製の槍(やり)を振り下ろして獲物を仕留めるのを可能にしていたようだ。
ネアンデルタール人は歯を第3の手のように使ったようだ。万力のように動物の皮革を歯でがっちりくわえて、丁寧に加工して、暖かい衣服に仕上げていたらしい。
ネアンデルタール人が互いに深い愛着を抱いていたことも分かっている。初期のネアンデルタール人が仲間同士で交流し、死者を埋葬していた証拠は、初期の現生人類の埋葬の証拠よりも多く残っている。ただ、死者を解体して食していた地域もある。これについては、死者を悼むプロセスの一部だった可能性が指摘されている。
さらに、チャギルスカヤ洞窟に住んでいた家族の痕跡は、ネアンデルタール人に高度な社会組織があったことも示している。「注目すべきは、男性ではなく女性が集団の間を渡り歩いていたらしいことだ」と、ペーボは語る。ペーボはマックス・プランク進化人類学研究所の教授として、ネイチャー誌掲載論文の共著者を務めた。「これはこの論文で初めて明確に示されたことで、社会組織について重要なことを物語っている」
驚くべきことに、最近の研究ではネアンデルタール人に一定の調理技術があったことも分かってきた。複雑な方法で食料を食べやすく加工していたというのだ。リバプール大学の研究チームは、ネアンデルタール人の炉跡とその周辺で見つかった炭化物の分子構造を調べて、現代の調理食品の分子構造と比較した。
すると、炭化物の多くの断片に、「独特の風味特性」を持つ植物や種子が混ざっていることが分かった。その一部は、水に浸したり、細かく砕いたり、他の材料と混ぜるなどの処理せずに食べると体を壊しかねないと、リバプール大学の植物考古学者ゼレン・カブクチュは指摘する。
「現代でいうレシピがあったかのようだ」と、カブクチュは本誌に語った。「食料はエネルギーや栄養を摂取するためだけでなく、調理の対象にもなっていた。これは(ネアンデルタール人の)狩猟と採集の方法に文化的な複雑性があることを示唆している」。カブクチュが共同執筆した論文は、科学誌アンティクィティの22年11月号に発表された。