【解説】最新の研究で解明進む、ネアンデルタール人の新事実──そして我々のこと

WHAT MAKES US HUMAN

2023年1月19日(木)13時00分
アダム・ピョーレ(ジャーナリスト)

230124p42_NDT_05.jpg

シベリア南部のチャギルスカヤ洞窟 BENCE VIOLA

例えば、多くのネアンデルタール人は右利きだった可能性が高く、極度にたくましい二の腕を持っていたようだ。利き腕の筋肉は反対の腕よりも25~60%大きく発達しており、狩猟中に強烈な力で木製の槍(やり)を振り下ろして獲物を仕留めるのを可能にしていたようだ。

ネアンデルタール人は歯を第3の手のように使ったようだ。万力のように動物の皮革を歯でがっちりくわえて、丁寧に加工して、暖かい衣服に仕上げていたらしい。

ネアンデルタール人が互いに深い愛着を抱いていたことも分かっている。初期のネアンデルタール人が仲間同士で交流し、死者を埋葬していた証拠は、初期の現生人類の埋葬の証拠よりも多く残っている。ただ、死者を解体して食していた地域もある。これについては、死者を悼むプロセスの一部だった可能性が指摘されている。

さらに、チャギルスカヤ洞窟に住んでいた家族の痕跡は、ネアンデルタール人に高度な社会組織があったことも示している。「注目すべきは、男性ではなく女性が集団の間を渡り歩いていたらしいことだ」と、ペーボは語る。ペーボはマックス・プランク進化人類学研究所の教授として、ネイチャー誌掲載論文の共著者を務めた。「これはこの論文で初めて明確に示されたことで、社会組織について重要なことを物語っている」

驚くべきことに、最近の研究ではネアンデルタール人に一定の調理技術があったことも分かってきた。複雑な方法で食料を食べやすく加工していたというのだ。リバプール大学の研究チームは、ネアンデルタール人の炉跡とその周辺で見つかった炭化物の分子構造を調べて、現代の調理食品の分子構造と比較した。

すると、炭化物の多くの断片に、「独特の風味特性」を持つ植物や種子が混ざっていることが分かった。その一部は、水に浸したり、細かく砕いたり、他の材料と混ぜるなどの処理せずに食べると体を壊しかねないと、リバプール大学の植物考古学者ゼレン・カブクチュは指摘する。

「現代でいうレシピがあったかのようだ」と、カブクチュは本誌に語った。「食料はエネルギーや栄養を摂取するためだけでなく、調理の対象にもなっていた。これは(ネアンデルタール人の)狩猟と採集の方法に文化的な複雑性があることを示唆している」。カブクチュが共同執筆した論文は、科学誌アンティクィティの22年11月号に発表された。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

COP29、年3000億ドルの途上国支援で合意 不

ワールド

アングル:またトランプ氏を過小評価、米世論調査の解

ワールド

アングル:南米の環境保護、アマゾンに集中 砂漠や草

ワールド

トランプ氏、FDA長官に外科医マカリー氏指名 過剰
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたまま飛行機が離陸体勢に...窓から女性が撮影した映像にネット震撼
  • 4
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 5
    「ダイエット成功」3つの戦略...「食事内容」ではな…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    ロシア西部「弾薬庫」への攻撃で起きたのは、戦争が…
  • 8
    クルスク州のロシア軍司令部をウクライナがミサイル…
  • 9
    「何も見えない」...大雨の日に飛行機を着陸させる「…
  • 10
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 4
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 5
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでい…
  • 8
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大き…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 7
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 8
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 9
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 10
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中