最新記事

日本

ロシアと異なる中国の戦術、日本の「防衛費1.5倍」では不十分だ

JAPAN’S MILITARY AWAKENING

2023年1月16日(月)18時05分
ブラマ・チェラニ(インド政策研究センター教授)
自衛隊

離島防衛を想定した陸上自衛隊の実弾演習(2022年5月) TOMOHIRO OHSUMI-POOL-REUTERS

<日本は大胆な国家安全保障戦略を採択。実現すれば世界第3位の防衛大国になるが、トマホークや極超音速ミサイルを手に入れるからといって、中国の「サラミ戦術」に対抗できるとは限らない>

日本は長年、軍事力ではなく、経済力によって国際社会に影響を与えようとしてきた。だが、中国の脅威がすぐ近くに迫ってきた今、平和主義的な防衛戦略を転換しようとしている。

防衛費をGDPの1%以下に抑え、攻撃能力は持たなかった伝統を覆して、インド太平洋地域の安全保障の中心的役割を担おうとしているのだ。

日本政府は昨年12月、大胆な国家安全保障戦略を採択した。同時に閣議決定された「防衛力整備計画」によれば、向こう5年間で防衛費を現在の1.5倍の43兆円に増やす。

実現すれば、日本は予算ベースでアメリカと中国に次ぐ世界第3位の防衛大国になる。日本はこの予算でアメリカの巡航ミサイル「トマホーク」を獲得するほか、極超音速誘導弾の開発を継続していく計画だ。

政府が財源確保のための増税の方針を示すと世論調査では防衛費増額への「反対」が拡大。だが政府は何としても増額を推し進める構えだ。

その理由は明らかだろう。

中国で習近平(シー・チンピン)国家主席が誕生した2013年、日本の国家安全保障戦略は、中国と「戦略的互恵関係を構築する」意欲を示していた。

ところが最新版は、日本の平和と安全を確保する上で、中国は「これまでにない最大の戦略的な挑戦」だと位置付けた。つまり習の下での中国の漸進的な拡張政策が、日本が平和主義的な安保政策を維持できないものにしたのだ。

ロシアのウクライナ侵攻は、日本人が防衛政策の転換を支持する機運を一段と後押しした。ロシアと同じように中国も、武力によって台湾を併合しようとするのではないかという懸念が高まったのだ。

実際、昨年8月に中国が台湾周辺で行った軍事演習では、中国の発射した弾道ミサイル9発のうち5発が日本の排他的経済水域(EEZ)内に落下した。

だが、軍備増強だけでは中国の拡張主義に十分待ったをかけることはできない。現在防衛予算が世界第3位のインドも、2020年以降に北部のヒマラヤ地方で続いている中国軍の越境行為を阻止できずにいる。

莫大な兵力でウクライナに攻め入ったロシアとは異なり、中国は隠密的で相手国や国際社会を欺き、不意を突く形で他国の領土を少しずつ切り取る「サラミ戦術」を取る。

南シナ海でも武力を一切行使することなく、1988年にジョンソン南礁、2012年にはスカボロー礁を実効支配下に置き、地政学地図を一方的に書き換えてきた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国で「南京大虐殺」の追悼式典、習主席は出席せず

ワールド

トランプ氏、次期FRB議長にウォーシュ氏かハセット

ビジネス

アングル:トランプ関税が生んだ新潮流、中国企業がベ

ワールド

アングル:米国などからトップ研究者誘致へ、カナダが
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の脅威」と明記
  • 2
    「前を閉めてくれ...」F1観戦モデルの「超密着コーデ」が物議...SNSで賛否続出
  • 3
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の展望。本当にトンネルは抜けたのか?
  • 4
    現役・東大院生! 中国出身の芸人「いぜん」は、なぜ…
  • 5
    世界最大の都市ランキング...1位だった「東京」が3位…
  • 6
    首や手足、胴を切断...ツタンカーメンのミイラ調査開…
  • 7
    「体が資本」を企業文化に──100年企業・尾崎建設が挑…
  • 8
    高市首相の「台湾有事」発言、経済への本当の影響度.…
  • 9
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 10
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 1
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 4
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 5
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 6
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 7
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 8
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    人手不足で広がり始めた、非正規から正規雇用へのキ…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 6
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中