スマホゲームの時代に大統領までカチカチ インドネシアでアメリカンクラッカーが大流行
最近は結婚式などで流れる音楽に効果音として「ラトラト」が使われることもあるというほどだ。また警察官が「ラトラト」の遊び方を「伝授」する動画をSNSにアップしたものの、その後謝罪して削除したという事例も報告されている。
ボールはピンク、青、黄色などで塗られ選択肢は多い。1個7000ルピアから1万ルピア(約60円から84円)という低価格で販売されている。実際に遊んでいるのは主に小学生やそれ以下の子供が中心だが、ネットに動画を投稿しているのは青年や大人たちで、自慢の技を撮影してインスタグラムなどのSNSにアップした動画が多く見られている。
負傷報告から学校持ち込み禁止も
このような全国的な大流行の中でかつての日本のようにボールが外れたり、破裂したりさらにはボールをうち当てることができずに手に当たって怪我を負うなどの事案が報告され始めている。
カリマンタン島西カリマンタン州クブラヤでは8歳の子供が「ラトラト」で遊んでいる間にボールが破裂して破片が目を直撃し、病院で手当てを受けたという。さらに西ジャワ州スカブミでは5歳の子供が負傷したという報告も届いているという。
こうした事例を受けてスマトラ島ランプン州などでは「ラトラト」の小学校などへの持ち込みを禁止する自治体、学校も出始めている。
児童保護委員会では子供に対して「気を付けて遊ぶように」と注意を促すだけでなく親などの大人が周囲で見守ることが重要であり、「興じる場所や時間」にも気を配るように求めている。周囲に人がいないことの確認や夜遅くまで遊ばないなどの助言を出し、大人にも注意を喚起している。
しかし一方で「ラトラト」に夢中になることで子供をそれまで遊んでいたスマートフォンのゲームや動画サイトなどから「遠ざける効果」が期待できると歓迎する意見もでている。スマートフォンは視力や聴力に影響を与える懸念があることから親や学校の先生などは所持禁止、持ち込み禁止、遊ぶ時間に制限を設けるなどしているものの、子供たちとのイタチごっこが続いている状況だ。
負傷報告もある危険でうるさい「ラトラト」か、視力聴力を低下させ周囲に気兼ねなく24時間遊べる「スマートフォン」か。今のところ、インドネシアの子供たちは二者択一ではなくどちらも楽しむことで時間を使おうとしているようだ。
結果としてショッピングセンター内や街角の路傍などのあちこちで「カチカチ」という音を鳴らし、そしてスマートフォンに見入る子供が溢れる状態が今日も続いている。
[執筆者]
大塚智彦(フリージャーナリスト)
1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など