最新記事

中国

中国はコロナ危機ではない、「政治体制」危機に瀕しているのだ

SHOOTING ITSELF IN THE FOOT

2023年1月11日(水)12時25分
ハワード・フレンチ(コロンビア大学ジャーナリズム大学院教授)

中国は過去3年間、パンデミックを露骨なプロパガンダに利用してきた。端的に言えば、世界中で感染が拡大するなかで中国は例外でいた。特に欧米は深刻な長期コロナ感染症(後遺症)に悩まされた。

その結果、中国の人々は中国の体制のほうが優れていて、中国共産党が人民の幸福の最良の擁護者だというメッセージを直接的・間接的に受け取った。過去3年間のほとんどで感染者がごくまれにしかいない状況でワクチンの接種と追加接種のために人々を列に並ばせるのは至難の業だった。

こうした無関心に加え、多くの中国人が国産ワクチンに懐疑的だ。中国産ワクチンの質が劣る点については国外でも過剰なくらい取り沙汰されてきた。欧米のワクチン、特にmRNA技術を使ったワクチンのほうが中国の旧式のワクチンより有効なのは間違いない。

こうした有効性の違いは、欧米のメディアが強調し、恐らく自国のシステムを信頼していない中国市民も認めているようだが、それでも実際にはかなり誇張されている。中国産ワクチンは効果は劣るものの、中国社会は現在まで追加接種で持ちこたえてきたし、入院・死亡という新型コロナ感染の最悪の事態はかなり防止できている。

このことからは、中国の今の惨状の本質がうかがえる。現在の状況は、中国を支える基盤であると同時に立ちはだかる壁でもある共産党にとって、いわば「自業自得」──つまり信頼の問題だ。

政府の見え透いた嘘で塗り固めた歴史の中でも、首都北京における新型コロナによる死者数は前例がない。感染が野火のように広がるなか、政府は逆の状況を示す事例を前にしても感染拡大による死者はゼロだと言い張った。

だがこれは氷山の一角にすぎない。方針転換直前まで国民はゼロコロナ政策や絶え間ないPCR検査や家庭への介入の必要性を吹き込まれてきた。プロパガンダの達人たちは突然の方針転換の理由をうまく説明できず、まして最高指導部の重大なミスを認める声明は発表できていない。

中産階級の台頭で威信失墜

息の詰まる検閲と隔離のおかげで、不都合な事実や不利な話をプロパガンダで一蹴できた時代もあった。

1989年の天安門事件後、共産党はまったくの作り話で事実を隠蔽した。当時の最高実力者である鄧小平は数百から数千ともいわれる人々の虐殺について、首都に吹き荒れた暴乱は「刑期を終えて釈放されたが思想改造がうまくいっていない一握りの人間や一部の政治的チンピラ、四人組の残党その他の社会のクズ」の所業であり「外国の敵対的勢力」が扇動したという話をでっち上げた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

赤沢再生相、ラトニック米商務長官と3日と5日に電話

ワールド

OPECプラス有志国、増産拡大 8月54.8万バレ

ワールド

OPECプラス有志国、8月増産拡大を検討へ 日量5

ワールド

トランプ氏、ウクライナ防衛に「パトリオットミサイル
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプvsイラン
特集:トランプvsイラン
2025年7月 8日号(7/ 1発売)

「平和主義者」のはずの大統領がなぜ? 核施設への電撃攻撃で中東と世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 2
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 3
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚人コーチ」が説く、正しい筋肉の鍛え方とは?【スクワット編】
  • 4
    孫正義「最後の賭け」──5000億ドルAI投資に託す復活…
  • 5
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 6
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコ…
  • 7
    「詐欺だ」「環境への配慮に欠ける」メーガン妃ブラ…
  • 8
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」…
  • 9
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 10
    反省の色なし...ライブ中に女性客が乱入、演奏中止に…
  • 1
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 2
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 3
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコに1400万人が注目
  • 4
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 5
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 6
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 7
    【クイズ】「宗教を捨てる人」が最も多い宗教はどれ?
  • 8
    普通に頼んだのに...マクドナルドから渡された「とん…
  • 9
    砂浜で見かけても、絶対に触らないで! 覚えておくべ…
  • 10
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 5
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 6
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 9
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 10
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中