最新記事

日本社会

「国に帰れ!」 東南アジア出身の店員に怒鳴るおじさん、在日3世の私...移民国家ニッポンの現実

2023年1月6日(金)14時36分
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部

母とオーナーはといえば、しばらくして仲良くなった。スナックの入るビルに、ゴミを共同で保管する小さな物置をおきたいと提案したら、思いのほかオーナーが喜んでくれたらしい。

「あの人、あんがい悪い人じゃないわ。ふふ」

オーナー評はがらり一変。家賃値上げ騒動も、どうやらコロナ禍をはさんでうやむやになったらしい。ニューカマーを嫌うのも早いが、雪どけも早かった。ガイジン同士、丁々発止やりあえる仲になったというところだろうか。



「このヤロウ、お前、日本語もろくにわからないくせに働いてんじゃねーっ。国に帰っちまえ。日本人の店員を連れてこいっ!」

深夜のチェーン店で牛めしをかっこんでいると、酔ったおじさんが店員に難くせをつけていた。豚めしと牛めしをとりちがえたという、ありふれたミスだ。過剰なクレーム、いやヘイトスピーチ。

それでも、お客さまは神さま。東南アジア系の店員はとまどい、奥に引っこんだ。日本人店員が出てきて、丁重に謝った。

あんたこそ、早くうちに帰んな! ここは「みんなの」食卓だ! 愚かな客をたしなめられれば一人前なのだろうが、私はその光景を尻目に、ただ黙って肉片を口に追いやるだけだった。早くその場を立ち去りたい一心で。

在日2世の母は、和解したとはいえ当初は「ガイジン」のオーナーをなじった。在日3世たる私だって、みずからも「ガイジン」なのに東南アジア系店員への不当なヘイトスピーチを黙殺した。

ぜんたい、在日コリアンは、外国人技能実習生をふくむ外国人を、まともな日本語も使えないニューカマーとして煙たがるべきなのか。それとも、彼らとの連帯に努めるべきなのだろうか──。

本書では、古くからの移民ともいえる戦後の在日の歩みをたどってみようと思う。そこに、実質的な移民国家ニッポンの未来の手がかりがあると信じて。


 『在日韓国人になる 移民国家ニッポン練習記
 林晟一[著]
 CCCメディアハウス[刊]

(※画像をクリックするとアマゾンに飛びます)


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:もう賄賂は払わない、アサド政権崩壊で夢と

ワールド

アングル:政治的権利に目覚めるアフリカの若者、デジ

ワールド

尹大統領の逮捕状発付、韓国地裁 本格捜査へ

ワールド

アングル:フィリピンの「ごみゼロ」宣言、達成は非正
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ新政権ガイド
特集:トランプ新政権ガイド
2025年1月21日号(1/15発売)

1月20日の就任式を目前に「爆弾」を連続投下。トランプ新政権の外交・内政と日本経済への影響は?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼いでいるプロゲーマーが語る「eスポーツのリアル」
  • 2
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べている」のは、どの地域に住む人?
  • 3
    「搭乗券を見せてください」飛行機に侵入した「まさかの密航者」をCAが撮影...追い出すまでの攻防にSNS爆笑
  • 4
    感染症に強い食事法とは?...食物繊維と腸の関係が明…
  • 5
    女性クリエイター「1日に100人と寝る」チャレンジが…
  • 6
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 7
    フランス、ドイツ、韓国、イギリス......世界の政治…
  • 8
    失礼すぎる!「1人ディズニー」を楽しむ男性に、女性…
  • 9
    オレンジの閃光が夜空一面を照らす瞬間...ロシア西部…
  • 10
    本当に残念...『イカゲーム』シーズン2に「出てこな…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 3
    睡眠時間60分の差で、脳の老化速度は2倍! カギは「最初の90分」...快眠の「7つのコツ」とは?
  • 4
    「拷問に近いことも...」獲得賞金は10億円、最も稼い…
  • 5
    メーガン妃のNetflix新番組「ウィズ・ラブ、メーガン…
  • 6
    轟音に次ぐ轟音...ロシア国内の化学工場を夜間に襲う…
  • 7
    【クイズ】世界で1番マイクロプラスチックを「食べて…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    ドラマ「海に眠るダイヤモンド」で再注目...軍艦島の…
  • 10
    【クイズ】次のうち、和製英語「ではない」のはどれ…
  • 1
    ティーバッグから有害物質が放出されている...研究者が警告【最新研究】
  • 2
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 3
    体の筋肉量が落ちにくくなる3つの条件は?...和田秀樹医師に聞く「老けない」最強の食事法
  • 4
    夜空を切り裂いた「爆発の閃光」...「ロシア北方艦隊…
  • 5
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 6
    TBS日曜劇場が描かなかった坑夫生活...東京ドーム1.3…
  • 7
    「涙止まらん...」トリミングの結果、何の動物か分か…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    「戦死証明書」を渡され...ロシアで戦死した北朝鮮兵…
  • 10
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリス…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中