最新記事

カタールW杯

「返せるはずがない...」W杯の闇──死んだ出稼ぎ労働者の妻たちが、祖国で借金まみれに

Widowed and Helpless

2022年12月20日(火)13時20分
マヘル・サッタル(報道NPO「フラー・プロジェクト」シニアエディター)、バードラ・シャルマ(ネパールのジャーナリスト)

義理の親に支配されて

221227p44_CTL_02_720.jpg

ネパールの街角にはカタール空港の広告が AP/AFLO

シルミタ・パシはネパールの公教育制度を信用せず、カタールで働く夫ラムサガルの収入を当てにして、2人の子供を私立校に入学させていた。だが4月に始まる新しい学年の学費はもう払えない。子供たちは学校をやめざるを得ないと、シルミタは言う。

研究者によれば、カタールで夫を亡くした多くの女性が経済的に困窮しており、その弱みに付け込む高利貸しの餌食になっている。ローザンヌ大学(スイス)でネパール人出稼ぎ労働者の家族を研究しているレク・ナス・パウデルによると、小口融資の高利貸しは女性たちに、夫が国外で死亡したら全てを失ってしまうからと言って、夫からの仕送りを自社と関係の深い小規模農場などのプロジェクトに投資するよう促している、という。

「出稼ぎ労働者の死や負傷への恐怖が恐喝の道具として利用されている」とパウデルは言う。「約束された豊かな暮らしをもたらすどころか、仕送りの金が怪しげな事業に投資され、うまくいかないことが多いため、さらに負債を抱え込む。これがまた新たな出稼ぎの引き金になる」

夫を失うということは、大切な味方を失うことでもある。南アジアの女性、特に湾岸諸国への出稼ぎ労働者の妻のような貧しい女性は、たいてい夫の家族と暮らしている。夫が死ねば、土地や資産、そして死亡補償金をめぐって義理の親との争いが起きるが、嫁にはほとんど力がない。

「ほとんどの寡婦は、夫の両親の意向に従わない限り、夫の遺産に関する権利を一切認められない」。カタールに渡って食品配達員として働いていた夫を失ったサンジュ・ジャイスワルはそう言った。「これが現実なの」

ネパール国家人権委員会のモーマ・アンサリ元委員によれば、問題がとりわけ深刻なのはインドと国境を接する南部のマデシ州だ。面積は最小だが人口は国内で最も多く、総人口およそ3040万人のうち約610万人が暮らす。

この地域の出稼ぎ労働者の寡婦の多くは、国境の向こうのインドの出身だ。アンサリによると、彼女たちは国籍や婚姻の事実を証明する書類を持たないことが多い。義理の親が嫁に対する影響力を維持するために、こうした書類の登録をわざと避けているからだという。

「法的な書類ができたら、嫁は金や財産を握って逃げ出すに決まっていると、義理の親は思っている」とアンサリは言う。「嫁は完全な家族の一員になれない」わけで、そのような状況だと「死亡補償金が妻の手に渡ることもあり得ない」と彼女は言う。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

バチカン枢機卿、米・イスラエルに停戦求める 異例の

ワールド

イランガス田はイスラエルが攻撃、米・カタール関与せ

ワールド

カタール・エナジー、LNG施設にミサイル攻撃 火災

ビジネス

FRB議長、関税・イラン戦争による物価上昇を警戒 
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:イラン革命防衛隊
特集:イラン革命防衛隊
2026年3月24日号(3/17発売)

イスラム神権国家を裏からコントロールする謎の軍隊の歴史と知られざる実力

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期スペイン女王は空軍で訓練中、問われる「軍を知る君主」
  • 2
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が発生し既に死者も、感染源は「ナイトクラブ」
  • 3
    第6回大会を終えて曲がり角に来たWBC
  • 4
    【衛星画像】イラン情勢緊迫、米強襲揚陸艦「トリポ…
  • 5
    モジタバの最高指導者就任は国民への「最大の侮辱」.…
  • 6
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する…
  • 7
    ガソリン価格はどこまで上がるのか? 専門家が語る…
  • 8
    韓国製ミサイル天弓-II、イラン戦争で96%迎撃の衝撃 …
  • 9
    観客が撮影...ティモシー・シャラメが「アカデミー賞…
  • 10
    原油高騰よりも米国経済・米株市場の行方を左右する…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期スペイン女王は空軍で訓練中、問われる「軍を知る君主」
  • 3
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が発生し既に死者も、感染源は「ナイトクラブ」
  • 4
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製…
  • 5
    職業別の収入に大変動......タクシー運転手・自動車…
  • 6
    ズボンを穿き忘れてる! 米セレブ、下を穿かず「目の…
  • 7
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 8
    世界の視線は中東から日本へ...企業主導で築くインド…
  • 9
    第6回大会を終えて曲がり角に来たWBC
  • 10
    【衛星画像】イラン情勢緊迫、米強襲揚陸艦「トリポ…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 3
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...撮影はパパ
  • 4
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 5
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医…
  • 6
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 7
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 8
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビ…
  • 9
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く…
  • 10
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期ス…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中