「返せるはずがない...」W杯の闇──死んだ出稼ぎ労働者の妻たちが、祖国で借金まみれに
Widowed and Helpless
義理の親に支配されて
シルミタ・パシはネパールの公教育制度を信用せず、カタールで働く夫ラムサガルの収入を当てにして、2人の子供を私立校に入学させていた。だが4月に始まる新しい学年の学費はもう払えない。子供たちは学校をやめざるを得ないと、シルミタは言う。
研究者によれば、カタールで夫を亡くした多くの女性が経済的に困窮しており、その弱みに付け込む高利貸しの餌食になっている。ローザンヌ大学(スイス)でネパール人出稼ぎ労働者の家族を研究しているレク・ナス・パウデルによると、小口融資の高利貸しは女性たちに、夫が国外で死亡したら全てを失ってしまうからと言って、夫からの仕送りを自社と関係の深い小規模農場などのプロジェクトに投資するよう促している、という。
「出稼ぎ労働者の死や負傷への恐怖が恐喝の道具として利用されている」とパウデルは言う。「約束された豊かな暮らしをもたらすどころか、仕送りの金が怪しげな事業に投資され、うまくいかないことが多いため、さらに負債を抱え込む。これがまた新たな出稼ぎの引き金になる」
夫を失うということは、大切な味方を失うことでもある。南アジアの女性、特に湾岸諸国への出稼ぎ労働者の妻のような貧しい女性は、たいてい夫の家族と暮らしている。夫が死ねば、土地や資産、そして死亡補償金をめぐって義理の親との争いが起きるが、嫁にはほとんど力がない。
「ほとんどの寡婦は、夫の両親の意向に従わない限り、夫の遺産に関する権利を一切認められない」。カタールに渡って食品配達員として働いていた夫を失ったサンジュ・ジャイスワルはそう言った。「これが現実なの」
ネパール国家人権委員会のモーマ・アンサリ元委員によれば、問題がとりわけ深刻なのはインドと国境を接する南部のマデシ州だ。面積は最小だが人口は国内で最も多く、総人口およそ3040万人のうち約610万人が暮らす。
この地域の出稼ぎ労働者の寡婦の多くは、国境の向こうのインドの出身だ。アンサリによると、彼女たちは国籍や婚姻の事実を証明する書類を持たないことが多い。義理の親が嫁に対する影響力を維持するために、こうした書類の登録をわざと避けているからだという。
「法的な書類ができたら、嫁は金や財産を握って逃げ出すに決まっていると、義理の親は思っている」とアンサリは言う。「嫁は完全な家族の一員になれない」わけで、そのような状況だと「死亡補償金が妻の手に渡ることもあり得ない」と彼女は言う。