最新記事

カタールW杯

【現地報告】W杯カタールへの「人権侵害」批判は妥当なのか

ALL EYES ON QATAR

2022年12月8日(木)17時50分
堀拔(ほりぬき)功二(日本エネルギー経済研究所主任研究員)

221213p54_CTL_04.jpg

スタジアム建設だけでなく労働人口の95%が外国人 KAI PFAFFENBACH-REUTERS

ヒューマン・ライツ・ウォッチは2012年に報告書を発表し、カタールで働く外国人労働者が置かれた過酷な就労環境を告発した。また国際労働組合総連合(ITUC)の書記長はカタールを「21世紀の奴隷国家」と強い口調で非難した。

英紙ガーディアンはW杯関連インフラ建設に携わった6500人もの外国人労働者が命を落としたと指摘し、カタールのW杯開催の正当性に疑問を呈した。

一連の人権批判については、多くの報道で知られているとおりである。ここではもう少し、カタール側の主張についても耳を傾けてみたい。

カタール政府もこれらの問題を放置してきたわけではなく、国際弁護士事務所に委託して労働問題の調査を実施。長年にわたりこの地域で採用され、外国人労働者の立場をより脆弱にしたと考えられている「カファラ」と呼ばれるスポンサー制度や、労働法を改正した。

企業への査察・指導体制や、外国人労働者の送り出し国との連携も強化された。不十分ながらも改革は進んでいる、というのが彼らの説明だ。

また、カタールは批判の中に見え隠れする「ダブルスタンダード」に憤っている。

例えばドイツは、ナンシー・フェーザー内相が10月末に「このような国に大会の開催権は与えられないほうがいい」と発言し、両国間に緊張が走った。

その一方で、ドイツは液化天然ガス(LNG)の輸入に向けてカタールと協議し、11月29日に交渉が成立。仮に人権問題を抱える国でのW杯開催が倫理的・道義的に問題であるなら、LNGの輸入は問題にならないのか。

カタール政府幹部も、西側の考えを「偏狭で傲慢だ」とたびたび批判している。自国が抱える問題を矮小化するつもりはないだろうが、カタールが一連の批判を「理不尽」と捉えていることは否定できない。

なお、このような問題は決してカタールに固有のものではない。

周辺の湾岸諸国も外国人労働者の人権については長年にわたり批判を受け続けてきたし、日本でも事実上の「外国人労働者」として受け入れられている技能実習生の問題は、カタールのそれと本質的な違いはない。

声援を送る外国人労働者たち

今回の熱狂を支えているのは、もちろん人口の大半を占める外国人である。

カタール航空の多国籍な客室乗務員も、空港で大会パンフレットを配るフィリピン人も、ホテルのレセプションを取り仕切るエジプト人も、スタジアムで誘導や清掃に当たるバングラデシュ人も、会場を盛り上げるフランス人DJも――。

さらに大会の保安に関わる警官隊や治安部隊が、パキスタンやヨルダン、モロッコなどから動員された。どの役割が欠けても、この巨大イベントは実施できなかっただろう。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

中国CPI、2月は0.7%下落 昨年1月以来のマイ

ワールド

米下院共和党がつなぎ予算案発表 11日採決へ

ビジネス

米FRBは金利政策に慎重であるべき=デイリーSF連

ワールド

米国との建設的な対話に全面的にコミット=ゼレンスキ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:進化し続ける天才ピアニスト 角野隼斗
特集:進化し続ける天才ピアニスト 角野隼斗
2025年3月11日号(3/ 4発売)

ジャンルと時空を超えて世界を熱狂させる新時代ピアニストの「軌跡」を追う

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやステータスではなく「負債」?
  • 2
    メーガン妃が「菓子袋を詰め替える」衝撃映像が話題に...「まさに庶民のマーサ・スチュアート!」
  • 3
    「これがロシア人への復讐だ...」ウクライナ軍がHIMARS攻撃で訓練中の兵士を「一掃」する衝撃映像を公開
  • 4
    うなり声をあげ、牙をむいて威嚇する犬...その「相手…
  • 5
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」…
  • 6
    テスラ大炎上...戻らぬオーナー「悲劇の理由」
  • 7
    ラオスで熱気球が「着陸に失敗」して木に衝突...絶望…
  • 8
    同盟国にも牙を剥くトランプ大統領が日本には甘い4つ…
  • 9
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアで…
  • 10
    【クイズ】ウランよりも安全...次世代原子炉に期待の…
  • 1
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 2
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやステータスではなく「負債」?
  • 3
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 4
    メーガン妃が「菓子袋を詰め替える」衝撃映像が話題…
  • 5
    アメリカで牛肉さらに値上がりか...原因はトランプ政…
  • 6
    イーロン・マスクの急所を突け!最大ダメージを与え…
  • 7
    「浅い」主張ばかり...伊藤詩織の映画『Black Box Di…
  • 8
    ニンジンが糖尿病の「予防と治療」に効果ある可能性…
  • 9
    「コメが消えた」の大間違い...「買い占め」ではない…
  • 10
    「これがロシア人への復讐だ...」ウクライナ軍がHIMA…
  • 1
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」だった?...高濃度で含まれる「食べ物」に注意【最新研究】
  • 4
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 7
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 8
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 9
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 10
    細胞を若返らせるカギが発見される...日本の研究チー…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中