【現地報告】W杯カタールへの「人権侵害」批判は妥当なのか
ALL EYES ON QATAR
ヒューマン・ライツ・ウォッチは2012年に報告書を発表し、カタールで働く外国人労働者が置かれた過酷な就労環境を告発した。また国際労働組合総連合(ITUC)の書記長はカタールを「21世紀の奴隷国家」と強い口調で非難した。
英紙ガーディアンはW杯関連インフラ建設に携わった6500人もの外国人労働者が命を落としたと指摘し、カタールのW杯開催の正当性に疑問を呈した。
一連の人権批判については、多くの報道で知られているとおりである。ここではもう少し、カタール側の主張についても耳を傾けてみたい。
カタール政府もこれらの問題を放置してきたわけではなく、国際弁護士事務所に委託して労働問題の調査を実施。長年にわたりこの地域で採用され、外国人労働者の立場をより脆弱にしたと考えられている「カファラ」と呼ばれるスポンサー制度や、労働法を改正した。
企業への査察・指導体制や、外国人労働者の送り出し国との連携も強化された。不十分ながらも改革は進んでいる、というのが彼らの説明だ。
また、カタールは批判の中に見え隠れする「ダブルスタンダード」に憤っている。
例えばドイツは、ナンシー・フェーザー内相が10月末に「このような国に大会の開催権は与えられないほうがいい」と発言し、両国間に緊張が走った。
その一方で、ドイツは液化天然ガス(LNG)の輸入に向けてカタールと協議し、11月29日に交渉が成立。仮に人権問題を抱える国でのW杯開催が倫理的・道義的に問題であるなら、LNGの輸入は問題にならないのか。
カタール政府幹部も、西側の考えを「偏狭で傲慢だ」とたびたび批判している。自国が抱える問題を矮小化するつもりはないだろうが、カタールが一連の批判を「理不尽」と捉えていることは否定できない。
なお、このような問題は決してカタールに固有のものではない。
周辺の湾岸諸国も外国人労働者の人権については長年にわたり批判を受け続けてきたし、日本でも事実上の「外国人労働者」として受け入れられている技能実習生の問題は、カタールのそれと本質的な違いはない。
声援を送る外国人労働者たち
今回の熱狂を支えているのは、もちろん人口の大半を占める外国人である。
カタール航空の多国籍な客室乗務員も、空港で大会パンフレットを配るフィリピン人も、ホテルのレセプションを取り仕切るエジプト人も、スタジアムで誘導や清掃に当たるバングラデシュ人も、会場を盛り上げるフランス人DJも――。
さらに大会の保安に関わる警官隊や治安部隊が、パキスタンやヨルダン、モロッコなどから動員された。どの役割が欠けても、この巨大イベントは実施できなかっただろう。