最新記事

カタールW杯

【現地報告】W杯カタールへの「人権侵害」批判は妥当なのか

ALL EYES ON QATAR

2022年12月8日(木)17時50分
堀拔(ほりぬき)功二(日本エネルギー経済研究所主任研究員)

221213p54_CTL_02.jpg

今年10月になってもドイツでは「ボイコット」の垂れ幕が掲げられた AP/AFLO

周囲をサウジアラビアやイランといった大国に囲まれたカタールにとって、自国と体制の安全保障は1971年の建国以来の最重要課題である。そのため、小国が生き延びる術として、あらゆる国とバランスよく付き合ってきた。

時には「テロ支援国家」のそしりを受けながらも、多くのアラブ諸国で警戒されるイスラム主義組織「ムスリム同胞団」やイランとも外交的なつながりを維持することを重視。その結果、2017~2021年にはカタールの方針に反発する周辺国のサウジアラビア、アラブ首長国連邦(UAE)、バーレーン、エジプトから断交の憂き目にも遭った。

また、国際的な知名度を上げる試みも行ってきた。これまでも2001年のWTOドーハ・ラウンド交渉に始まり、2006年のアジア競技大会、2012年のCOP18(気候変動枠組条約第18回締約国会議)など国際的なイベントの誘致を通じて、国家の「ブランディング」に努めてきた。

その結果、中東の小国から今日では誰もが知る国になった。W杯の開催に当たり世界中でカタールの国名が連呼されたが、狙いはまさにこの点である。

ところが、そのW杯をめぐっては当初からさまざまな懸念を集めていた。不透明な招致過程と汚職疑惑、夏から冬への開催時期変更、外国人労働者を中心とする人権問題の数々、サステナブルをうたった大会の環境負荷の重さなどの問題が提起された。

果たしてカタールはW杯を開催するのにふさわしい国なのか。次第に欧米メディアや国際人権団体だけでなく、各国の代表チームの間でも批判の声が高まった。

カタールにとってのW杯開催は、同国の国際的な知名度を上げるとともに、レピュテーション(評判)を低下させる両刃の剣になった。

世界的なスポーツの祭典であるため、開幕が近づくにつれ関心が高まり、カタールの「負の側面」により批判的な注目が集まったのは仕方がない。カタール政府もある程度は織り込み済みだったことだろう。

しかしながら、開幕してからも続くセンセーショナルな人権問題批判は、確実に「カタール=人権無視の国」という烙印となった。

「改革を進めてきた」と主張

特に外国人労働者の人権問題については、長年にわたり批判されてきた。

カタールは300万の人口のうち、自国民は約30万人で残りが外国人と推定されている。労働人口は2020年時点で213万人を数え、その実に95%が外国人。アラブ、南アジア、東南アジア、アフリカを中心に各地から短期滞在の労働力として集まっている。

なお外国人労働者といっても、建設労働者やタクシードライバーから、金融機関や大学で働く人材まで多種多様である。カタールの社会と経済は、外国人労働者の存在を抜きには成立しない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米国株式市場・序盤=ダウ一時900ドル安、中東情勢

ワールド

イランとは「無条件降伏」以外の合意あり得ず=トラン

ワールド

イスラエル、ヒズボラ排除へベイルート空爆強化 10

ビジネス

2月の米雇用者数は9.2万人減、失業率は4.4%に
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプのイラン攻撃
特集:トランプのイラン攻撃
2026年3月10日号(3/ 3発売)

核開発の断念を迫るトランプ政権が攻撃を開始。イランとアメリカの本格戦争は始まるのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    中国はイランを見捨てた? イランの「同盟国」だったはずの中国が、不気味なまでに静かな理由
  • 2
    日本の保護者は自分と同じ「大卒」の教員に敬意を示さない
  • 3
    10歳少女がライオンに激しく襲われる...中国の動物園で撮影された「恐怖の瞬間」映像にネット震撼
  • 4
    「みんな一斉に手を挙げて...」中国の航空会社のフラ…
  • 5
    「巨大な水柱に飲み込まれる...」米海軍がインド洋で…
  • 6
    サファリ中の女性に悲劇...ライオンに「くわえ去られ…
  • 7
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビ…
  • 8
    「ハリポタ俳優で終わりたくない」...ハリー・メリン…
  • 9
    「毎日が人生最後の日」だと思って酒を飲む...84歳医…
  • 10
    【イラン戦争で中東再編へ】トランプを止めるのは湾…
  • 1
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビザの壁、会社都合の解雇、帰国後も続く苦境
  • 2
    縫いぐるみが相棒、孤独なサル「パンチくん」がバズった理由
  • 3
    BTS復活...でも、韓国エンタメが「苦境」に陥っている
  • 4
    イラン猛反撃、同士討ちまで起きる防空戦はいつまで…
  • 5
    「毎日が人生最後の日」だと思って酒を飲む...84歳医…
  • 6
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 7
    サファリ中の女性に悲劇...ライオンに「くわえ去られ…
  • 8
    少子化に悩む韓国で出生率回復...昨年過去最大の伸び…
  • 9
    「死体を運んでる...」Google Earthで表示される「不…
  • 10
    「若い連中は私を知らない」...大ヒット映画音楽の作…
  • 1
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 2
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 3
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 4
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 5
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 6
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医…
  • 7
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 8
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 9
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く…
  • 10
    「罠に嵌められた」と主張するが...欧州で次々と摘発…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中