【現地報告】W杯カタールへの「人権侵害」批判は妥当なのか
ALL EYES ON QATAR
周囲をサウジアラビアやイランといった大国に囲まれたカタールにとって、自国と体制の安全保障は1971年の建国以来の最重要課題である。そのため、小国が生き延びる術として、あらゆる国とバランスよく付き合ってきた。
時には「テロ支援国家」のそしりを受けながらも、多くのアラブ諸国で警戒されるイスラム主義組織「ムスリム同胞団」やイランとも外交的なつながりを維持することを重視。その結果、2017~2021年にはカタールの方針に反発する周辺国のサウジアラビア、アラブ首長国連邦(UAE)、バーレーン、エジプトから断交の憂き目にも遭った。
また、国際的な知名度を上げる試みも行ってきた。これまでも2001年のWTOドーハ・ラウンド交渉に始まり、2006年のアジア競技大会、2012年のCOP18(気候変動枠組条約第18回締約国会議)など国際的なイベントの誘致を通じて、国家の「ブランディング」に努めてきた。
その結果、中東の小国から今日では誰もが知る国になった。W杯の開催に当たり世界中でカタールの国名が連呼されたが、狙いはまさにこの点である。
ところが、そのW杯をめぐっては当初からさまざまな懸念を集めていた。不透明な招致過程と汚職疑惑、夏から冬への開催時期変更、外国人労働者を中心とする人権問題の数々、サステナブルをうたった大会の環境負荷の重さなどの問題が提起された。
果たしてカタールはW杯を開催するのにふさわしい国なのか。次第に欧米メディアや国際人権団体だけでなく、各国の代表チームの間でも批判の声が高まった。
カタールにとってのW杯開催は、同国の国際的な知名度を上げるとともに、レピュテーション(評判)を低下させる両刃の剣になった。
世界的なスポーツの祭典であるため、開幕が近づくにつれ関心が高まり、カタールの「負の側面」により批判的な注目が集まったのは仕方がない。カタール政府もある程度は織り込み済みだったことだろう。
しかしながら、開幕してからも続くセンセーショナルな人権問題批判は、確実に「カタール=人権無視の国」という烙印となった。
「改革を進めてきた」と主張
特に外国人労働者の人権問題については、長年にわたり批判されてきた。
カタールは300万の人口のうち、自国民は約30万人で残りが外国人と推定されている。労働人口は2020年時点で213万人を数え、その実に95%が外国人。アラブ、南アジア、東南アジア、アフリカを中心に各地から短期滞在の労働力として集まっている。
なお外国人労働者といっても、建設労働者やタクシードライバーから、金融機関や大学で働く人材まで多種多様である。カタールの社会と経済は、外国人労働者の存在を抜きには成立しない。