最新記事

カタールW杯

【現地報告】W杯カタールへの「人権侵害」批判は妥当なのか

ALL EYES ON QATAR

2022年12月8日(木)17時50分
堀拔(ほりぬき)功二(日本エネルギー経済研究所主任研究員)
カタールW杯

W杯で使用される8会場の1つ、アフメド・ビン・アリ・スタジアム DAVID RAMOS/GETTY IMAGES

<開催国カタールに浴びせられた外国人労働者の「人権無視」の声。中東研究者が現地で遭遇したのは祭典を楽しむ労働者の姿と、西側の「傲慢」に憤る声だった>

11月26日早朝、カタールの首都ドーハに降り立った。普段の日本便はカタールから先の目的地へ向かう乗り継ぎ客が多く、せいぜい10人ほどしか入国ゲートへ向かわない。しかし今回は乗客の大半がカタールへ入国しており、筆者もサッカー・ワールドカップ(W杯)の特別さを実感することができた。

街中にはカタール訪問を歓迎するメッセージが掲げられ、カラフルに彩られたラッピングバスが走る。街全体が特別な祝祭の雰囲気に包まれており、これまでのドーハの雰囲気とは全く違った。

普段は外国人と積極的に交わらない地元のカタール人も、街ゆく外国人訪問客に「ウェルカム!」と声をかける。

「外国人」──カタールを語るに際し、欠かせないキーワードだ。ただしカタール人たちの意に反し、その多くはネガティブな文脈で使われる。

11月から12月の大会期間中、世界の視線はW杯の開催国であるカタールに集まった。これまで「世界で最も退屈な街」と揶揄されてきた首都ドーハには、各国から100万人を超えるサポーターが集まり、「世界で最も熱狂した街」に様変わりした。

だが、集まる視線はサッカーだけにとどまらない。秋頃から外国人労働者や性的少数者の人権問題批判が再燃し、大会開催に向けた盛り上がりを覆い隠すほどになった。

カタールへの批判は、W杯の開催が決まった2010年からたびたび起こっていたものの、これほど大規模に取り上げられることはなかった。そのため、カタール政府関係者が「悪意あるキャンペーン」が世界で展開されているといら立つほどだった。

一体何が起こっているのか。

カタールを含む湾岸諸国をフィールドに研究をしている筆者は、今回のW杯をめぐる動向を開催決定から開幕に至る10年以上にわたり追い続けている。カタール史上最大の祭典を現地で目撃する機会を得たこともあり、現地の様子を織り交ぜながら同国でのW杯開催の意味を考えてみたい。

カタールには「両刃の剣」

カタールはペルシャ湾の南側に位置する君主制の小国である。日本の報道でも「人口は300万人で秋田県ほどの面積」という決まり文句が浸透した。

世界的な天然ガス輸出国として知られており、ロシアのウクライナ侵攻により同国からの天然ガス供給が停止した欧州諸国は相次いでドーハ詣でをして、天然ガスの確保に努めた。

また小国に似合わない外交力を誇っており、現在は米国とイランの核合意再建交渉を仲介している。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

英小売売上高、10月は5月以来の前月比マイナス 予

ワールド

マクロスコープ:円安・債券安、高市政権内で強まる警

ワールド

ABC放送免許剥奪、法的に不可能とFCC民主党委員

ワールド

アングル:EUの対中通商姿勢、ドイツの方針転換で強
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判殺到、そもそも「実写化が早すぎる」との声も
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ成長株へ転生できたのか
  • 4
    中国の新空母「福建」の力は如何ほどか? 空母3隻体…
  • 5
    ロシアはすでに戦争準備段階――ポーランド軍トップが…
  • 6
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 7
    アメリカの雇用低迷と景気の関係が変化した可能性
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    幻の古代都市「7つの峡谷の町」...草原の遺跡から見…
  • 10
    EUがロシアの凍結資産を使わない理由――ウクライナ勝…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 4
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 5
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 6
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 7
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 8
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 9
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 10
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中