草の根技術協力が結実! ペルーのスーパーフードから生まれたサッポロビール「インカの扉」の秘密
<現地ペルーですら忘れられた存在となっていった「サチャインチ」。日本のNPO、JICAの草の根技術協力、そして保存食研究家――。10月18日、彼らのまいた種が意外なところで実を結んだ>
NGOや大学、民間企業等が提案する国際協力活動を、JICAとの協力関係のもとに実施する「草の根技術協力事業」。今年12月に20周年を迎えます。この節目を目前に、ひとつの取り組みが実を結んで世に送り出されました。10月18日、サッポロビールから発売された「HOPPIN' GARAGE(ホッピンガレージ)インカの扉」。南米で古くから愛されるサチャインチというナッツの搾りかすを使用した発泡酒です。どのような経緯で発売に至ったのでしょうか。誕生までのストーリーに迫りました。
高栄養価、高生産性の「ペルーの宝物」サチャインチとの出会い
「サチャインチはペルーの宝物。健康や美容に良い成分を豊富に含む『スーパーフード』です」
そう話すのは、NPOアルコイリス代表理事の大橋則久さん。2008年から2017年の間に3回にわたって、ペルーでJICAとの草の根技術協力事業を実施しました。自然環境の保全と農業を両立させたアグロフォレストリー農法でサチャインチを栽培。サチャインチの種子から取れるオイルの製造を通して、現地の人々の生計向上をはじめとしたQOL(Quality of Life、生活の質)の改善に取り組んできました。
大橋さんがサチャインチの魅力に引き込まれたのは、2005年のこと。サチャインチに注目し研究を進めていたペルー人実業家のホセ・アナヤさんと出会ったことがきっかけでした。
「サチャインチは、1542年以前のプレ・コロニアル時代から栽培されていた植物です。私が渡航した当時のペルーでは、すでに知る人ぞ知る忘れ去られた存在になっていましたが、とても魅力的な作物だと思いました。オメガ3脂肪酸やビタミンEが豊富な良質な油がとれるうえに、その搾りかすにもタンパク質が豊富に含まれます。しかも、種を撒いて8〜10ヵ月後には毎月のように収穫でき、生産性も高いのです。商品化、産業化したいと思いました」
「JICAの草の根技術協力」で、「按田餃子」店主にプロジェクト参加を依頼
ただ、サチャインチの栽培方法についての情報がほとんどなく、サチャインチの製品開発のためには費用も専門知識も必要でした。そこで、大橋さんはJICAの草の根技術協力事業に申請。「サチャインチを、アグロフォレストリーという持続可能性の高い方法で栽培して商品化を模索するには、開発要素が大きく、専門家のプロジェクトへの参画が必須でした。そうした素地を整える上でも、JICAさんの力を借りられたことは非常に大きかったのです」
第2回の事業を終えたころは、すでにサチャインチオイルの製造を始めており、その販売も軌道に乗り始めていました。ただ、搾油したあとに残る、タンパク質を豊富に含む搾りかすの活用が課題になっていました。そこで大橋さんは、3回目の草の根技術協力事業(2012年6月〜2017年5月)において、保存食研究家で「按田餃子」店主の按田優子さんに食品加工専門家としての参加を依頼。搾りかすを使用したレシピの考案を含め、現地の人々のQOLの向上に関わる業務を要請します。