巨大衝突のあと、わずか数時間のうちに月が形成されていた
原始地球と巨大な天体テイアが衝突した後...... (Jacob Kegerreis-NASA)
<NASAのエイムズ研究センターらの研究チームは、スーパーコンピューターで高解像度シミュレーションを行い、「原始地球と巨大な天体テイアが衝突した後、わずか数時間のうちに月が形成された可能性がある」との研究論文を発表した......>
NASA(アメリカ航空宇宙局)の「アポロ11号」が1969年7月のミッションで月から地球に持ち帰った岩石や塵の試料は約45億年前のものであった。月は太陽系の形成から約1億5000万年後の激動の時代に形成されたとみられる。
ジャイアント・インパクトはどのように行われたのか
月の起源については、約45億年前に火星くらいの大きさの天体「テイア」と原始地球が衝突し、周囲に拡散した破片が集まって月が形成されたとする「ジャイアント・インパクト説(巨大衝突説)」が有力だと考えられてきたが、この衝突がどのように行われたのかについては議論がある。
「原始地球に衝突したテイアがその衝撃で無数の破片となって原始地球からの気化した岩石やガスとともにゆっくりと円盤に混ざり、その周りに月の溶けた球体が何百万年もかけて合体して冷却した」という従来の仮説は、月の岩石の多くが地球のものと顕著に類似していることと矛盾する。
また、「月の形成にはテイアからの破片よりも原始地球の気化した岩石が多く使われた」とする説もあるが、モデル化によって、原始地球の岩石が崩壊してできた月の軌道は現在の月のものとは大きく異なることが示されている。
衝突後、数時間のうちに月が形成された
英ダラム大学、NASAのエイムズ研究センターらの研究チームは、スーパーコンピューターで高解像度シミュレーションを行い、2022年10月4日付の学術雑誌「アストロフィジカルジャーナル・レターズ」で「原始地球とテイアが衝突した後、原始地球とテイアからの物質が直接軌道に乗り、わずか数時間のうちに月が形成された可能性がある」との研究論文を発表した。この新たな仮説は、大きく傾いた軌道や一部が溶けた内部構造、薄い地殻など、既知の月の特徴とも整合する。
研究チームは、天体物理学や宇宙学のための流体力学と重力のオープンソースコード「SWIFT」を用い、ダラム大学のスーパーコンピューター「COSMA」で衝突角度、衝突速度、回転、質量などの項目を変えながら約400回の衝突シミュレーションを行った。
シミュレーションの解像度はシミュレーションで使用される粒子の数で決まる。月の形成のシミュレーションでは従来、10万~100万個の粒子が用いられてきたが、今回は1億個までモデル化することが可能となった。
地球に持ち帰る月の試料の分析が待たれる
今回の高解像度のシミュレーションでは、低解像度のシミュレーションでは大規模衝突の重要な様相を見逃すおそれがあることもわかった。これまでの研究ではわからなかった新たな挙動が定性的にとらえられている。
いずれの仮説が正しいのかを検証するためには、NASAの有人月面探査計画「アルテミス」で地球に持ち帰る月の試料の分析が待たれる。月の別の場所や月面下から採取された試料が入手できれば、シミュレーションデータを実際のデータと比較でき、月の進化プロセスの解明にもつながるだろう。