最新記事

ウクライナ戦争

【調査報道】ロシア軍を「戦争犯罪」で糾弾できるのか

ARE THEY WAR CRIMES?

2022年8月17日(水)17時50分
ウィリアム・アーキン(元米陸軍情報分析官)

クレメンチュクやセルヒイフカの爆撃は戦争犯罪なのか? 答えは「ノー」だろう。

腹立たしい結論かもしれない。これらの攻撃は、マリウポリやブチャと並んで、既に戦争犯罪のレッテルを貼られた凶悪な行為と変わりないように見える。

戦争犯罪に加担したロシア兵やその指揮官がいることも間違いない。だがクレメンチュク、ブフレダル、セルヒイフカのようなケースは、性能の悪い兵器や人間の判断ミス、そして戦時であれば不可避的に民間人にも及ぶであろうリスクの結果と言わざるを得ない。

ウクライナ軍の兵舎や倉庫の多くは市街地の周辺にあり、ウクライナの主要空港のうち少なくとも10カ所は軍との共用施設だ。そしてウクライナ軍、とりわけ国家警備隊と領土防衛隊は都市部で活動している。

また首都キーウ(キエフ)の防空システムは明らかに軍事施設だが、当然のことながら人口密集地域に設置されている。だから、初めから民間人が犠牲になるリスクは高い。

ロシア兵は「混乱した子供」

ウクライナの地理的事情が問題なのではない。しかし民間施設の損壊や民間人の死亡の全てを「戦争犯罪」と規定するのは正しくない。そういう非難の応酬は現場の実態を正しく反映していない。

アメリカのAP通信と公共放送サービスPBSなどが共同で運営するウェブサイト「戦争犯罪ウォッチ・ウクライナ」は、「民間人への直接攻撃や病院、学校、住宅地、国際人道法の下で保護されている場所など、民間インフラへの攻撃を含むウクライナにおける潜在的な戦争犯罪の証拠」を記録している。

例えばキーウの西130キロにある都市ジトーミルで、「戦争犯罪ウォッチ」は7件の戦争犯罪を指摘している。医療施設に対する攻撃が2件、学校に対する攻撃が2件、文化・宗教施設に対する攻撃が2件、「市民に対する直接攻撃」が1件だ。

いずれもロシア側の攻撃で多数の民間人が死亡し、大きな被害が出た。結果を見れば、市街地と住民が標的になったと言える。

だが「戦争犯罪ウォッチ」の告発は、この町に軍の関連施設が多く、航空爆撃司令部や第95航空爆撃旅団、2つの主要軍事学校、訓練センター、第148砲兵大隊、さらに国家警備隊と領土防衛隊の本部もあることに触れていない。近くに第39航空団の基地があることにも触れなかった。

「彼らは超大国の戦士ではない。何も知らずに動員された子供たちだ」

この戦争が始まったとき、ウクライナのゼレンスキー大統領はロシア兵について、そう言っていた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ECB幹部、EUの経済結束呼びかけ 「対トランプ」

ビジネス

ECBの12月利下げ幅巡る議論待つべき=独連銀総裁

ワールド

新型ミサイルのウクライナ攻撃、西側への警告とロシア

ワールド

独新財務相、財政規律改革は「緩やかで的絞ったものに
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでいない」の証言...「不都合な真実」見てしまった軍人の運命
  • 4
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 5
    プーチンはもう2週間行方不明!? クレムリン公式「動…
  • 6
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 7
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」…
  • 8
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 9
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 10
    巨大隕石の衝突が「生命を進化」させた? 地球史初期…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 5
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 6
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 7
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 8
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 9
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 10
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 10
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中