【調査報道】ロシア軍を「戦争犯罪」で糾弾できるのか
ARE THEY WAR CRIMES?
クレメンチュクやセルヒイフカの爆撃は戦争犯罪なのか? 答えは「ノー」だろう。
腹立たしい結論かもしれない。これらの攻撃は、マリウポリやブチャと並んで、既に戦争犯罪のレッテルを貼られた凶悪な行為と変わりないように見える。
戦争犯罪に加担したロシア兵やその指揮官がいることも間違いない。だがクレメンチュク、ブフレダル、セルヒイフカのようなケースは、性能の悪い兵器や人間の判断ミス、そして戦時であれば不可避的に民間人にも及ぶであろうリスクの結果と言わざるを得ない。
ウクライナ軍の兵舎や倉庫の多くは市街地の周辺にあり、ウクライナの主要空港のうち少なくとも10カ所は軍との共用施設だ。そしてウクライナ軍、とりわけ国家警備隊と領土防衛隊は都市部で活動している。
また首都キーウ(キエフ)の防空システムは明らかに軍事施設だが、当然のことながら人口密集地域に設置されている。だから、初めから民間人が犠牲になるリスクは高い。
ロシア兵は「混乱した子供」
ウクライナの地理的事情が問題なのではない。しかし民間施設の損壊や民間人の死亡の全てを「戦争犯罪」と規定するのは正しくない。そういう非難の応酬は現場の実態を正しく反映していない。
アメリカのAP通信と公共放送サービスPBSなどが共同で運営するウェブサイト「戦争犯罪ウォッチ・ウクライナ」は、「民間人への直接攻撃や病院、学校、住宅地、国際人道法の下で保護されている場所など、民間インフラへの攻撃を含むウクライナにおける潜在的な戦争犯罪の証拠」を記録している。
例えばキーウの西130キロにある都市ジトーミルで、「戦争犯罪ウォッチ」は7件の戦争犯罪を指摘している。医療施設に対する攻撃が2件、学校に対する攻撃が2件、文化・宗教施設に対する攻撃が2件、「市民に対する直接攻撃」が1件だ。
いずれもロシア側の攻撃で多数の民間人が死亡し、大きな被害が出た。結果を見れば、市街地と住民が標的になったと言える。
だが「戦争犯罪ウォッチ」の告発は、この町に軍の関連施設が多く、航空爆撃司令部や第95航空爆撃旅団、2つの主要軍事学校、訓練センター、第148砲兵大隊、さらに国家警備隊と領土防衛隊の本部もあることに触れていない。近くに第39航空団の基地があることにも触れなかった。
「彼らは超大国の戦士ではない。何も知らずに動員された子供たちだ」
この戦争が始まったとき、ウクライナのゼレンスキー大統領はロシア兵について、そう言っていた。