最新記事

ウクライナ戦争

【調査報道】ロシア軍を「戦争犯罪」で糾弾できるのか

ARE THEY WAR CRIMES?

2022年8月17日(水)17時50分
ウィリアム・アーキン(元米陸軍情報分析官)

220823p28_SHZ_01v2.jpg

キーウ近郊の町イルピンで、埋葬のために墓を掘り続ける墓掘り人(4月21日) JOHN MOORE/GETTY IMAGES

標的を限定できない兵器や「過度の傷害や不必要な苦痛」をもたらす兵器の使用は禁じられている。生物・化学兵器の使用は全面的に禁止だ。一方、一定の条件下では使える兵器もある。

またロシア軍でさえ「無差別の性格を持つ、または過度の傷害や苦痛を与えるあらゆる種類の武器」の禁止を明文化しているが、それでも実際には性能の悪い旧式のミサイルが使われている。例えばクレメンチュク爆撃に使用されたのは、旧ソ連時代の1960年代に開発されたミサイルKH22だった。

ロシア政府は爆撃後、「欧米から道路建機工場に届けられた機材や弾薬の格納庫」を狙った攻撃だと発表した。

これは嘘だと多くの事情通および調査担当者らが口をそろえる。工場はショッピングセンターから約400メートルのところにある。ロシア政府に言わせると、工場から飛び火して火事になったというが、攻撃後の衛星画像ではショッピングセンター敷地内の一角にミサイルが着弾したクレーターがはっきりと見える。

クラスター爆弾を発射したのは

数々の調査により、ロシア側のプロパガンダの嘘は覆されてきた。

だがロシアが欺瞞に満ちた卑劣な説明をするからと言って、全てが「戦争犯罪」だったとは言い切れない。本当に軍と関係のない民間施設を標的として定め、意図的に攻撃したのかどうか......。

これは答えの出しにくい問題だ。

実際にミサイルを発射した爆撃機乗組員の証言が得られない限り、告発する側は現場で得られるであろう証拠に加え、それが単なる悲しい偶然や過失ではなく、ロシア軍の通常の軍事行動の結果だと証明しなければならない。「意図」の証明が戦争犯罪を立件する条件だ。

ロシアがウクライナに侵攻して以来、国際的な人権団体はロシア側の行為を綿密に記録してきた。例えば国際人権団体アムネスティ・インターナショナルとヒューマン・ライツ・ウォッチは侵攻初日に、南東部マリウポリの北80キロの炭鉱町ブフレダルの病院がロシア軍に攻撃されたと非難している。

2月24日午前10時半頃、短距離弾道ミサイルのトーチカ(NATOコードネームSS21スカラベ)が中央市民病院前に着弾し、民間人4人が死亡、10人が負傷した。ヒューマン・ライツ・ウォッチは弾頭に50個の子弾を持つクラスター爆弾であることに注目し、国際条約で禁止された兵器だと指摘した。アムネスティも自前の「エビデンス・ラボ」で病院爆撃を「検証」したという。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ドイツ銀、S&P500年末予想を5500に引き上げ

ビジネス

UAE経済は好調 今年予想上回る4%成長へ IMF

ワールド

ニューカレドニア、空港閉鎖で観光客足止め 仏から警

ワールド

イスラエル、ラファの軍事作戦拡大の意向 国防相が米
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:スマホ・アプリ健康術
特集:スマホ・アプリ健康術
2024年5月28日号(5/21発売)

健康長寿のカギはスマホとスマートウォッチにあり。アプリで食事・運動・体調を管理する方法

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    米誌映画担当、今年一番気に入った映画のシーンは『悪は存在しない』のあの20分間

  • 2

    「隣のあの子」が「未来の王妃」へ...キャサリン妃の「ロイヤル大変貌」が話題に

  • 3

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 4

    中国の文化人・エリート層が「自由と文化」を求め日…

  • 5

    半裸でハマスに連れ去られた女性は骸骨で発見された─…

  • 6

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 7

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 8

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた…

  • 9

    9年前と今で何も変わらない...ゼンデイヤの「卒アル…

  • 10

    「親ロシア派」フィツォ首相の銃撃犯は「親ロシア派…

  • 1

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 2

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両を一度に焼き尽くす動画をウクライナ軍が投稿

  • 3

    エジプトのギザ大ピラミッド近郊の地下に「謎めいた異常」...「極めて重要な発見」とは?

  • 4

    「EVは自動車保険入れません」...中国EVいよいよヤバ…

  • 5

    原因は「若者の困窮」ではない? 急速に進む韓国少…

  • 6

    「隣のあの子」が「未来の王妃」へ...キャサリン妃の…

  • 7

    北米で素数ゼミが1803年以来の同時大発生、騒音もダ…

  • 8

    SNSで動画が大ヒットした「雨の中でバレエを踊るナイ…

  • 9

    「まるでロイヤルツアー」...メーガン妃とヘンリー王…

  • 10

    プーチン5期目はデフォルト前夜?......ロシアの歴史…

  • 1

    ロシア「BUK-M1」が1発も撃てずに吹き飛ぶ瞬間...ミサイル発射寸前の「砲撃成功」動画をウクライナが公開

  • 2

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 3

    EVが売れると自転車が爆発する...EV大国の中国で次々に明らかになる落とし穴

  • 4

    新宿タワマン刺殺、和久井学容疑者に「同情」などで…

  • 5

    やっと撃墜できたドローンが、仲間の兵士に直撃する…

  • 6

    立ち上る火柱、転がる犠牲者、ロシアの軍用車両10両…

  • 7

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

  • 8

    一瞬の閃光と爆音...ウクライナ戦闘機、ロシア軍ドロ…

  • 9

    ヨルダン・ラジワ皇太子妃のマタニティ姿「デニム生地…

  • 10

    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中