最新記事

日本

子供が「歩き回る自由」を守る、日本の政策・価値観・都市計画

FREEDOM FOR CHILDREN

2022年8月5日(金)06時30分
オーウェン・ウェイグッド(モントリオール理工科大学准教授)

ここで言い添えておきたいのだが、このような調査をするとき、日本などのアジア諸国と欧米諸国とでは、文化的な感覚の違いを考慮に入れる必要がある。何かが「良い」と言うとき、日本人の感覚では5点満点中3点であり、「素晴らしい」とか「抜群」ではないことを意味する。

これに対して、カナダ人が「良い(good)」と言うときは、5点中4点か5点という意味だ。何か問題があれば、カナダ人は3点を付けるが、日本人は1点か2点を付ける。こうした違いを考慮に入れないと、国際的な比較はおかしな結果を導きかねない。

都会ほど強い地域の見守り

カナダでは、「子供は農村部などの田舎で育てたほうがいい」という考えが広く存在する。その背景には、「住民同士の距離が近い」とか「ご近所さんをよく知っている」というイメージから、子供が1人で歩き回っても安心だという感覚がある。

日本では、都会の子供も田舎の子供も集団で登下校することが多い。それを細かく観察してみると、正反対の現実が見えてくる。日本では、人口密度の高い都市部ほど、子供たちは歩いて登下校することが多く、知り合いに会いに行くことが多く、より自立しているのだ。

こうした子供たちの自由をサポートする仕組みもたくさんある。その1つは、村のような特徴を持つ都会の地域社会だ。

商店と学校などの施設が同じ地区に混在しているから、子供たちの移動距離は小さくて済む。道路が狭いから、車が危険な速度で走ることもない。

また、町内会や立ち話や、子供祭りなど、近隣住民が一緒に飲み、食べ、楽しむことで、お互いを知り合い、社会的な絆を維持する仕組みが存在する。

ある国際的な調査によると、「近隣住民を知っているか」という質問に対して「知っている」と答えたのは、日本の親が一番多かった。別の調査では、日本の都市部ほどこの傾向が強いことが分かった。

これは、北米で考えられているのとは反対に、日本では社会的なつながりを維持した「人間的な」都市開発が可能であることを示している。そこでは子供たちが自由に歩き回り、親が常に車で送迎する必要はない。

子供にとっての自由は、親にとっての自由でもある。親と子の人生を豊かにする子供の移動の自由を、日本がいつまでも維持することを願ってやまない。

magSR20220805freedomforchildren-3.jpg

オーウェン・ウェイグッド(モントリオール理工科大学准教授)/京都大学大学院で子供の移動をテーマとする博士論文を執筆。現在も日本と世界における子供の移動について研究を続けている Courtesy Owen Waygood

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

英総合PMI、12月速報は52.1に上昇 予算案で

ビジネス

独ZEW景気期待指数、12月は45.8に上昇 予想

ワールド

ウクライナ提案のクリスマス停戦、和平合意成立次第=

ビジネス

EUの炭素国境調整措置、自動車部品や冷蔵庫などに拡
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連疾患に挑む新アプローチ
  • 4
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 5
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 6
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 7
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 8
    アダルトコンテンツ制作の疑い...英女性がインドネシ…
  • 9
    FRBパウエル議長が格差拡大に警鐘..米国で鮮明になる…
  • 10
    「なぜ便器に?」62歳の女性が真夜中のトイレで見つ…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 4
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 7
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 8
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 9
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 10
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中