中国はかつて世界最高の「先進国」だった自国が、なぜ没落したか思い出すべき
THE LOSE-LOSE WAR
議会がNASAに「あらゆる科学的活動を中国と共同で行うこと」を禁じて10年余りがたった。その間に中国は探査車を月に送り、火星に探査機を着陸させ、世界最大の電波望遠鏡・中国天眼(FAST)を公開・開放するなど宇宙研究と天文学の分野で大きな進歩を遂げている。
制裁を受けたことで中国は独自に技術を発展させようと奮起し、数字もそんな中国に味方する。人口は米国の4倍以上。国民が団結して目標の達成に邁進してきた長い歴史と強い労働倫理を持ち、理系の学生が多く、研究インフラは成長著しい。
中国では強硬姿勢を嫌って多くの人材が渡米を取りやめ、21年の調査によれば在米中国人科学者やエンジニアのおよそ40%がアメリカを離れることを考えている。
制裁の中でも特に有害なのが、司法省が産業スパイを取り締まる目的で18年に立ち上げ、今年2月に終了を発表した「中国イニシアチブ」。注目された訴訟のほとんどは無罪判決に終わり、そもそも罪状の大半は諜報活動でも知的財産の窃盗でもなく、助成金を申請する際の書類の不備だった。
アメリカの強硬姿勢はデメリットばかり
大学や企業に中国との断交を要請してもメリットはない。アメリカは科学に貢献するだけでなく科学から利益を得ており、強硬策はその発展を損なうだけだ。
実際、科学の囲い込みは不可能に近い。学術研究の大半は公開され、科学者は国際学会やウェビナーに参加する。関係を断っても、知識が中国に渡るのは止められない。
むしろそうした行為は、アメリカの道義的なイメージを損なう。経済発展を遂げたら次は自分たちが標的にされるのかと、途上国は身構え、現在の中国に80年代の日本を重ねるだろう。途上国の指導者はたいていイデオロギーより経済と生活水準の向上を優先するから、目標達成を助けてくれる国と手を結ぶ。
現在最も対応が急がれるのは地球規模の危機であり、競争と協力の両方が求められる。新型コロナウイルスと気候変動はどちらも国境を越えて人類に害をなし、解決には知恵の結集が必要だ。
パンデミックが始まると世界中の科学者が協力して、重要な情報(ウイルスの遺伝子情報から人体への影響、治療の効果まで)を共有した。
競争も活性化した。さまざまな国の企業がさまざまなアプローチでワクチン開発に挑み、おかげで開発に付き物の失敗のリスクを軽減することができた。ワクチン開発競争は国家間の覇権争いではなく、知恵と解決策の探求と見るべきだ。
同様に、気候変動も一つの国や地域が解決できる問題ではない。世界的な協調が求められる一方で、グリーン・テクノロジーの開発と発展には競争が有益だろう。