最新記事

米中対立

中国はかつて世界最高の「先進国」だった自国が、なぜ没落したか思い出すべき

THE LOSE-LOSE WAR

2022年8月5日(金)19時30分
キショール・マブバニ(国立シンガポール大学フェロー)、トニー・チャン(サウジアラビア・アブドラ国王科学技術大学学長)

議会がNASAに「あらゆる科学的活動を中国と共同で行うこと」を禁じて10年余りがたった。その間に中国は探査車を月に送り、火星に探査機を着陸させ、世界最大の電波望遠鏡・中国天眼(FAST)を公開・開放するなど宇宙研究と天文学の分野で大きな進歩を遂げている。

制裁を受けたことで中国は独自に技術を発展させようと奮起し、数字もそんな中国に味方する。人口は米国の4倍以上。国民が団結して目標の達成に邁進してきた長い歴史と強い労働倫理を持ち、理系の学生が多く、研究インフラは成長著しい。

中国では強硬姿勢を嫌って多くの人材が渡米を取りやめ、21年の調査によれば在米中国人科学者やエンジニアのおよそ40%がアメリカを離れることを考えている。

制裁の中でも特に有害なのが、司法省が産業スパイを取り締まる目的で18年に立ち上げ、今年2月に終了を発表した「中国イニシアチブ」。注目された訴訟のほとんどは無罪判決に終わり、そもそも罪状の大半は諜報活動でも知的財産の窃盗でもなく、助成金を申請する際の書類の不備だった。

アメリカの強硬姿勢はデメリットばかり

大学や企業に中国との断交を要請してもメリットはない。アメリカは科学に貢献するだけでなく科学から利益を得ており、強硬策はその発展を損なうだけだ。

実際、科学の囲い込みは不可能に近い。学術研究の大半は公開され、科学者は国際学会やウェビナーに参加する。関係を断っても、知識が中国に渡るのは止められない。

むしろそうした行為は、アメリカの道義的なイメージを損なう。経済発展を遂げたら次は自分たちが標的にされるのかと、途上国は身構え、現在の中国に80年代の日本を重ねるだろう。途上国の指導者はたいていイデオロギーより経済と生活水準の向上を優先するから、目標達成を助けてくれる国と手を結ぶ。

現在最も対応が急がれるのは地球規模の危機であり、競争と協力の両方が求められる。新型コロナウイルスと気候変動はどちらも国境を越えて人類に害をなし、解決には知恵の結集が必要だ。

パンデミックが始まると世界中の科学者が協力して、重要な情報(ウイルスの遺伝子情報から人体への影響、治療の効果まで)を共有した。

競争も活性化した。さまざまな国の企業がさまざまなアプローチでワクチン開発に挑み、おかげで開発に付き物の失敗のリスクを軽減することができた。ワクチン開発競争は国家間の覇権争いではなく、知恵と解決策の探求と見るべきだ。

同様に、気候変動も一つの国や地域が解決できる問題ではない。世界的な協調が求められる一方で、グリーン・テクノロジーの開発と発展には競争が有益だろう。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

中国人民銀、一部銀行の債券投資調査 利益やリスクに

ワールド

香港大規模火災、死者159人・不明31人 修繕住宅

ビジネス

ECB、イタリアに金準備巡る予算修正案の再考を要請

ビジネス

トルコCPI、11月は前年比+31.07% 予想下
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇気」
  • 2
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与し、名誉ある「キーパー」に任命された日本人
  • 3
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させられる「イスラエルの良心」と「世界で最も倫理的な軍隊」への憂い
  • 4
    【クイズ】日本で2番目に「ホタテの漁獲量」が多い県…
  • 5
    台湾に最も近い在日米軍嘉手納基地で滑走路の迅速復…
  • 6
    【クイズ】17年連続でトップ...世界で1番「平和な国…
  • 7
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 8
    トランプ王国テネシーに異変!? 下院補選で共和党が…
  • 9
    トランプ支持率がさらに低迷、保守地盤でも民主党が…
  • 10
    コンセントが足りない!...パナソニックが「四隅配置…
  • 1
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 2
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体を東大教授が解明? 「人類が見るのは初めて」
  • 3
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 4
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 5
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 6
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 7
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 8
    【クイズ】世界遺産が「最も多い国」はどこ?
  • 9
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 10
    子どもより高齢者を優遇する政府...世代間格差は5倍…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 4
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 5
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 6
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 7
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 8
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 9
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中