最新記事

米中対立

中国はかつて世界最高の「先進国」だった自国が、なぜ没落したか思い出すべき

THE LOSE-LOSE WAR

2022年8月5日(金)19時30分
キショール・マブバニ(国立シンガポール大学フェロー)、トニー・チャン(サウジアラビア・アブドラ国王科学技術大学学長)

220726p24_TEC_02.jpg

「次のシリコンバレー」との呼び声も高い中国・深圳 QILAI SHENーBLOOMBERG/GETTY IMAGES

香港と隣接する深圳は1990年代初頭まで寂れた漁村だったが、今では「次のシリコンバレー」との呼び声も高い。中国の大学は世界ランキングの上位に食い込んでいる。一流大学の給与や研究費はアメリカの名門校に引けを取らない。

中国は優秀な学生を輩出し続け、その一部はアメリカの大学院で学んでいる。最近のある調査によると、北京の清華大学はアメリカの一流大学にコンピューター科学の教授を世界で2番目に多く送り込んでいる。

10年ほど前にはほとんど想像もできなかった以上のような発展は、より幅広い歴史的視点から見ると理解しやすくなる。1820年頃までの2000年間の大半を通じて、中国とインドは世界の2大経済大国であり、両国で世界のGDPの約半分を占めていた。つまり、過去200年間の欧米支配は歴史上の逸脱であり、中国とインドの経済的復活は常態への回帰と見なせるかもしれない。

実際、中国の歴史は火薬、羅針盤、製紙など、科学的発見と技術革新にあふれている。現代中国も同様に見るべきだ。中国人の創造性やイノベーション力に疑問の余地はない。

どの国も「盗んで」発展してきた

欧米には、中国の台頭は欧米の技術を盗んだ結果にすぎないという疑念が根強くある。FBIのクリス・レイ長官は20年7月、中国のスパイ活動を米経済に対する「長期的な最大の脅威」と断言。人類史上最大の富の移転の1つと表現した。

この種の窃盗行為が起きているのは確かだが、今も昔も多くの国が技術を「盗んで」きたのも事実だ。近代以前の中国の偉大な発明は、特に西洋人の手で盗まれた。アメリカも蒸気機関、電気、ロケット噴射といったヨーロッパの発明を盗んだ。

アメリカ人作家のチャールズ・モリスは19世紀におけるアメリカの勃興を描いた『イノベーションの夜明け』で次のように指摘した。「(初期のアメリカ人は)イギリスの知的財産の保護に敬意を払っていなかった。彼らが独立のために闘ったのは、母国の息苦しい経済的制約から逃れるためだった。彼らの目には、イギリスの技術障壁はアメリカを原材料の供給源として、低価格製品の市場として利用するための擬似植民地主義的な策略と映った」

結果的にそれが世界に恩恵をもたらした。もし産業革命期の発明が利己的な国益の壁に阻まれ、世界に普及していなかったら、人類は今より不便な暮らしを送っていただろう。

もちろん、ここ数十年の中国と19世紀のアメリカとの間には違いがある。当時のアメリカはイギリスとの間に知的財産権に関するいかなる法的取り決めも結んでいなかった。これに対して中国は、WTO(世界貿易機関)の知的財産保護ルールを遵守することに同意したが、実際には守っていないと欧米は主張している。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国、香港の火災報道巡り外国メディア呼び出し 「虚

ワールド

26年ブラジル大統領選、ボルソナロ氏長男が「出馬へ

ワールド

中国軍機、空自戦闘機にレーダー照射 太平洋上で空母

ビジネス

アングル:AI導入でも揺らがぬ仕事を、学位より配管
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺るがす「ブラックウィドウ」とは?
  • 3
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 6
    「搭乗禁止にすべき」 後ろの席の乗客が行った「あり…
  • 7
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 8
    仕事が捗る「充電の選び方」──Anker Primeの充電器、…
  • 9
    『羅生門』『七人の侍』『用心棒』――黒澤明はどれだ…
  • 10
    ビジネスの成功だけでなく、他者への支援を...パート…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺るがす「ブラックウィドウ」とは?
  • 3
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」が追いつかなくなっている状態とは?
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 6
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 7
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 8
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 9
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 10
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中