最新記事

米中対立

中国はかつて世界最高の「先進国」だった自国が、なぜ没落したか思い出すべき

THE LOSE-LOSE WAR

2022年8月5日(金)19時30分
キショール・マブバニ(国立シンガポール大学フェロー)、トニー・チャン(サウジアラビア・アブドラ国王科学技術大学学長)
米中技術対立

PHOTO ILLUSTRATION BY DA-KUK/GETTY IMAGES

<アメリカは「敵対」する中国を経済的にデカップリングしようとするより、互いに協力可能な分野を探す努力をすべきだ>

米中間の地政学的対立が激化している。ロシアのウクライナ侵攻は、最も新しい分裂要因にすぎない。互いの敵意は高まる一方で、双方とも関係悪化を食い止めようとする努力をほとんどしていない。

この状況は回避不可能なものではない。世界平和を維持し、人類が直面する緊急課題に対処するために、米中は協力できる分野を見つけ、関係悪化の流れを逆転させる必要がある。科学技術(特に気候変動関連)は新たな協力に最適な分野だ。そのためには双方が基本認識を改め、もっと冷静に議論する必要がある。

アメリカ側では、中国を経済的に切り離せばアメリカを追い越すどころか、追い付くのも不可能になると考える政治指導者や評論家が多い。だが過去40年間の中国の発展は、この見方の誤りを示唆している。

ハーバード大学のグレアム・アリソン教授らは昨年12月、同大ベルファー科学・国際関係研究所の論文でこう指摘した。「ある種の競争では、(中国は)既にナンバーワンとなった。この勢いが続けば、今後10年以内にアメリカを追い抜くだろう」

中国はどうしようもなく後進的でイノベーション(技術革新)を起こせないという評価が大勢を占めていたのは、そう昔の話ではない。当時の中国は欧米の消費者向け製品を安価な労働力で製造する場所だった。

全米科学・技術・医療アカデミーは1999年に公表した今後数十年の未来展望で、「中国はさほど問題にならない」と予測した。「部屋の中のゾウを見落とした」ようなものだったと、アリソンは指摘する。

だが現在の見方は変わった。アリソン自身が言うように、「テクノロジーの頂点に立つアメリカの支配に挑戦する中国の急速な台頭がアメリカの関心を集めている」のだ。

もう欧米から学ぶことはないと考える中国

一方、中国側には今や自国だけでやっていけると信じる人々が大勢いる。既に欧米や世界から学ぶべきことは全て学んだと、彼らは考えている。自国産のイノベーションと統治機構の強さがあれば、現在の勢いを維持できるというわけだ。

彼らは自国の歴史を思い返すべきだ。世界で最も豊かで先進的な社会だった中国が長い時間をかけて衰退していったのは、外の世界から学ぼうとしない姿勢と、中国の制度は他のどこよりも優れているという思い込みが大きな原因の1つだった。

2016年頃までの数十年間、アメリカをはじめとする世界の大半が中国の台頭を歓迎し、奨励していた。中国の成長は平和的で、多くの面で有益なものと受け止められていた。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米政府、大規模人員削減加速へ 最高裁の判断受け=関

ビジネス

ECB追加利下げ、ハードル非常に高い=シュナーベル

ビジネス

英BP、第2四半期は原油安の影響受ける見込み 上流

ビジネス

アングル:変わる消費、百貨店が適応模索 インバウン
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:大森元貴「言葉の力」
特集:大森元貴「言葉の力」
2025年7月15日号(7/ 8発売)

時代を映すアーティスト・大森元貴の「言葉の力」の源泉にロングインタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 2
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に...「曾祖母エリザベス女王の生き写し」
  • 3
    トランプ関税と財政の無茶ぶりに投資家もうんざり、「強いドルは終わった」
  • 4
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...AP…
  • 5
    アメリカを「好きな国・嫌いな国」ランキング...日本…
  • 6
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「…
  • 7
    アメリカの保守派はどうして温暖化理論を信じないの…
  • 8
    名古屋が中国からのフェンタニル密輸の中継拠点に?…
  • 9
    トランプはプーチンを見限った?――ウクライナに一転パ…
  • 10
    【クイズ】日本から密輸?...鎮痛剤「フェンタニル」…
  • 1
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 2
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 3
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...APB「乗っ取り」騒動、日本に欠けていたものは?
  • 4
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 5
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 6
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコ…
  • 7
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚…
  • 8
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」…
  • 9
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 10
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中