最新記事

スリランカ

国民を「こじき」にした一族支配、行き過ぎた仏教ナショナリズム──スリランカ崩壊は必然だった

A Long and Winding Road to Ruin

2022年7月22日(金)18時20分
ニール・デボッタ(米ウェークフォレスト大学政治・国際関係教授)

スリランカは現在、IMFや世界銀行からの支援を得ようとしているが、これらの機関は支援や債務再編に同意する前に、中国からの借り入れに関する透明性を要求するだろう。スリランカはまさに、中国の「債務の罠」に落ちた国の典型だからだ。

一方で私腹を肥やしてきた政治家は、責任追及を恐れて権力の座にとどまりたがる。ゴタバヤ・ラジャパクサは大統領選に出馬するに当たって米国籍を放棄しているから逃げ場がなく、ひとたび権力を失えば国内で不正利得を告発される恐れがあった。

民族主義で腹は膨れず

大統領が正式に辞任した後、議会はウィクラマシンハを大統領代行に指名し、7月20日に議員の互選で(ゴタバヤの任期の切れる24年までの)新大統領を決める予定だ。(編集部注:21日、ウィクラマシンハが新大統領に就任)しかし国民の怒りは国会にも向けられているから、場合によっては早期の解散・総選挙を迫られる可能性もある。

いずれにせよ、生活必需品の不足は今後も何カ月か続くだろう。つまりラジャパクサ家がいなくなっても、当面は今の経済的苦難が続くとみていい。支援の先頭に立つのは隣国インドだ。既に40億ドルの資金を提供している。中国も通貨スワップで資金を出しているが、スリランカの債務再編には消極的だ(もしも応じれば「債務の罠」に落ちた他の諸国も同様な要求をしてくるに違いない)。

日本は主要な援助国で債権国でもあるが、やはり追加支援には慎重だ。この腐敗体質では援助金がどこに流れるか分からないからだ。他の支援国も同様で、スリランカ政府の腐敗の根が取り除かれないかぎり、誰も動かない。早急に政治の安定を取り戻すことが、さらなる追加融資や債務再編の第一歩だ。

考えてみれば、スリランカ国民の7月9日の行動は実に革命的だった。5月に元大統領で現職首相のマヒンダを追い落とした勢いで、2カ月後には弟で現職大統領のゴタバヤも倒した。

しかし、それを可能にしたのは未曽有の経済危機であり、この国で圧倒的多数を占めるシンハラ人仏教徒が宗教的な寛容の精神に目覚め、少数派のタミル人やイスラム教徒に対して犯してきた人道上の罪を認めたからではない。

それでも、今回の事態で分かったことがある。いくら民族主義的な感情に訴えても、日常的な飢餓と欠乏感には勝てないという事実だ。ラジャパクサ兄弟も、このことを思い知らされたはずだ。

そして民衆の抗議行動は宗派を超えて多くの宗教者や一般市民を団結させ、この島国の未来をみんなで考え、築いていこうという機運を生んだ。みんなが苦しんできたのだから、多数派民族による強権支配とは縁を切るべきだ。だがこの国の悲しい歴史を顧みると、あいにく明るい未来は描けない。

【映像】大統領公邸になだれ込み、プールを占拠するスリランカ国民

From Foreign Policy Magazine

ニューズウィーク日本版 BTS再始動
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2026年4月7号(3月31日発売)は「日本企業に迫る サステナビリティ新基準」特集。国際基準の情報開示や多様な認証制度――本当の「持続可能性」が問われる時代へ

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

不明兵捜索、時間との戦い イランの猛攻耐えた米軍救

ワールド

トランプ氏、イランに合意期限「6日」 米戦闘機乗員

ワールド

米、イランで不明の戦闘機乗員救出 トランプ氏「史上

ワールド

イラク南部の巨大油田に攻撃、3人負傷 イラン国境に
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本企業に迫る サステナビリティ新基準
特集:日本企業に迫る サステナビリティ新基準
2026年4月 7日号(3/31発売)

国際基準の情報開示や多様な認証制度──本当の「持続可能性」が問われる時代へ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「考えの浅い親」が子どもに言ってしまっている口ぐせ・ワースト1
  • 2
    【銘柄】イラン情勢で一躍脚光の「NEC」 防衛・宇宙の2大テーマでAI懸念を払拭できるか
  • 3
    「高市しぐさ」の問題は「媚び」だけか?...異形の「攻撃的知能」を解剖する
  • 4
    イラン戦争の現実...アメリカとイスラエル、見え始め…
  • 5
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅…
  • 6
    攻撃開始日も知っていた?──イラン戦争を巡る巨額取引…
  • 7
    地面にくねくねと伸びる「奇妙な筋」の正体は? 飛行…
  • 8
    なぜイスラエルは対イラン戦争を支持するのか...「イ…
  • 9
    血圧やコレステロール値より重要?死亡リスクを予測…
  • 10
    トランプ、イランに合意期限「米東部時間6日午前10時…
  • 1
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅」企業が救う、ウクライナの未来
  • 2
    イラン戦争の現実...アメリカとイスラエル、見え始めた限界
  • 3
    攻撃開始日も知っていた?──イラン戦争を巡る巨額取引、インサイダー疑惑が市場に波紋
  • 4
    「考えの浅い親」が子どもに言ってしまっている口ぐ…
  • 5
    なぜイスラエルは対イラン戦争を支持するのか...「イ…
  • 6
    中国がイラン戦争最大の被害者? 習近平の誤った経…
  • 7
    年金は何歳からもらうのが得? 男女で違う「最適な受…
  • 8
    【銘柄】イラン情勢で一躍脚光の「NEC」 防衛・宇宙…
  • 9
    初の女性カンタベリー大主教が就任...ウィリアム皇太…
  • 10
    「高市しぐさ」の問題は「媚び」だけか?...異形の「…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 3
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅」企業が救う、ウクライナの未来
  • 4
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...…
  • 5
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期ス…
  • 6
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え…
  • 7
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が…
  • 8
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 9
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製…
  • 10
    メーガン妃、娘リリベット王女との「お手伝い姿」公…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中