最新記事

植物

環境ストレスを受けた植物は、アスピリンを自前で生成して、葉緑体を保護していた

2022年7月21日(木)18時15分
青葉やまと

日照りにも強く......食糧危機の緩和に期待

論文の共同執筆者であるカリフォルニア大学リバーサイド校のウィルヘミナ・ヴァン・デ・ヴェン准教授は、「私たちは疼きや痛みに鎮痛剤を使いますが、同じく植物もそうするようなものです」と述べ、サリチル酸が植物にとっても刺激への対処に役立っていると解説している。

温暖化の進行で干ばつなど食糧難が発生している昨今、過酷な環境で作物をいかに育むかは重要な課題だ。植物のストレス対応プロセスを明かした今回の論文は、将来的に食糧危機を緩和する手法の開発につながると期待されている。

研究に携わったワン氏は、「私たちは得られた知見を、作物の耐性を高めるために利用したいと考えています」「私たちの世界はますます暑く日差しが強くなっており、(本研究は)食物供給上きわめて重要になるでしょう」と述べている。

研究には、シロイヌナズナと呼ばれるアブラナ科の一年草が用いられた。シロイヌナズナは高等植物としてはじめて全ゲノムの解析とアノテーション(意味づけ)が完了した植物であり、研究用のモデル植物としてよく用いられる。研究チームは今回モデルとしたシロイヌナズナ以外でも、アスピリンの合成が植物全般に広く行われている可能性が高いと考えているようだ。

平時から導入できる、アスピリンを使った栽培テクニック

アスピリンはこれまで、園芸のテクニックとしても活用されてきた。強いストレスを生じる状況でなくとも、アスピリンには植物の生育を助ける作用があるようだ。トマトの栽培時にアスピリンを与えるとストレスに強くなり、収穫量も向上するという栽培テクニックがイギリスで報告されている。

園芸専門誌の創設者であるクリス・ボンネット氏は英エクスプレス紙に対し、水やりの際、ジョーロ1杯に対してアスピリンを1〜2錠の割合で混ぜるというテクニックを紹介している。トマトの生育が早くなり、虫害にも強くなるほか、収穫量も増えるのだという。

安全性が公式に確認されているわけではないため、自己責任とはなる点に注意したい。ただ、アスピリンが植物の抵抗力を向上する働きがあることは、以前から人々の間で経験則として知られてきたようだ。同紙によると、トマトを植える前の段階で苗をアスピリンの溶液に浸しておくよう進める専門家もいるという。

人間の痛みを和らげるアスピリンは、植物の健康な生育にとっても役立っているようだ。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

豊田織機の非公開化報道、トヨタ「一部出資含め様々な

ビジネス

中国への融資終了に具体的措置を、米財務長官がアジア

ビジネス

ベッセント長官、日韓との生産的な貿易協議を歓迎 米

ワールド

アングル:バングラ繊維産業、国内リサイクル能力向上
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 3
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航勧告を強化
  • 4
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 5
    アメリカ鉄鋼産業の復活へ...鍵はトランプ関税ではな…
  • 6
    関税ショックのベトナムすらアメリカ寄りに...南シナ…
  • 7
    ロケット弾直撃で次々に爆発、ロシア軍ヘリ4機が「破…
  • 8
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 9
    ビザ取消1300人超──アメリカで留学生の「粛清」進む
  • 10
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中