環境ストレスを受けた植物は、アスピリンを自前で生成して、葉緑体を保護していた
日照りにも強く......食糧危機の緩和に期待
論文の共同執筆者であるカリフォルニア大学リバーサイド校のウィルヘミナ・ヴァン・デ・ヴェン准教授は、「私たちは疼きや痛みに鎮痛剤を使いますが、同じく植物もそうするようなものです」と述べ、サリチル酸が植物にとっても刺激への対処に役立っていると解説している。
温暖化の進行で干ばつなど食糧難が発生している昨今、過酷な環境で作物をいかに育むかは重要な課題だ。植物のストレス対応プロセスを明かした今回の論文は、将来的に食糧危機を緩和する手法の開発につながると期待されている。
研究に携わったワン氏は、「私たちは得られた知見を、作物の耐性を高めるために利用したいと考えています」「私たちの世界はますます暑く日差しが強くなっており、(本研究は)食物供給上きわめて重要になるでしょう」と述べている。
研究には、シロイヌナズナと呼ばれるアブラナ科の一年草が用いられた。シロイヌナズナは高等植物としてはじめて全ゲノムの解析とアノテーション(意味づけ)が完了した植物であり、研究用のモデル植物としてよく用いられる。研究チームは今回モデルとしたシロイヌナズナ以外でも、アスピリンの合成が植物全般に広く行われている可能性が高いと考えているようだ。
平時から導入できる、アスピリンを使った栽培テクニック
アスピリンはこれまで、園芸のテクニックとしても活用されてきた。強いストレスを生じる状況でなくとも、アスピリンには植物の生育を助ける作用があるようだ。トマトの栽培時にアスピリンを与えるとストレスに強くなり、収穫量も向上するという栽培テクニックがイギリスで報告されている。
園芸専門誌の創設者であるクリス・ボンネット氏は英エクスプレス紙に対し、水やりの際、ジョーロ1杯に対してアスピリンを1〜2錠の割合で混ぜるというテクニックを紹介している。トマトの生育が早くなり、虫害にも強くなるほか、収穫量も増えるのだという。
安全性が公式に確認されているわけではないため、自己責任とはなる点に注意したい。ただ、アスピリンが植物の抵抗力を向上する働きがあることは、以前から人々の間で経験則として知られてきたようだ。同紙によると、トマトを植える前の段階で苗をアスピリンの溶液に浸しておくよう進める専門家もいるという。
人間の痛みを和らげるアスピリンは、植物の健康な生育にとっても役立っているようだ。